b1170から1174.
崇峻天皇御書 (すしゅんてんのうごしょ).
日蓮大 聖人 56歳御作.

 

b1170

すしゅんてんのうごしょ.
崇峻天皇御書.

けんじ 3ねん 9がつ 56さい おんさく.
建治 三年 九月 五十六歳 御作.

あたう しじょうきんご.
与 四条金吾.

しろこそで 1りょう ぜに 1ゆい また ときどのの おんふみ のみ.
白小袖 一領・銭 一ゆひ・又 富木殿の 御文のみ・.

なによりも かき なし なまひじき ひるひじき.
なによりも・かき なし なまひじき ひるひじき・.

ようようの もの うけとり しなじな おんつかいに たび そうらいぬ.
やうやうの 物 うけ取り しなじな 御使に たび 候いぬ、.

さては なによりも かみの おんいたわり なげき いって そうろう.
さては・なによりも 上の 御いたはり なげき 入つて 候、.

たとい かみは ごしんよう なき ように そうらえども.
たとひ 上は 御信用 なき 様に 候へども・.

との その うちに おわして その ごおんの かげにて.
との 其の 内に をはして 其の 御恩の かげにて.

ほけきょうを やしない まいらせ たまい そうらえば ひとえに かみの おんいのりとぞ なり そうろうらん.
法華経を やしなひ・まいらせ 給い 候へば 偏に 上の 御祈とぞ なり 候らん、.

たいぼくの したの しょうぼく たいがの ほとりの くさは まさしく その あめに あたらず.
大木の 下の 小木・大河の 辺の 草は 正しく 其の 雨に あたらず.

その みずを えずと いえども つゆを つたえ いきを えて さかうる ことに そうろう.
其の 水を えずと いへども 露を つたへ・いきをえて・さかうる 事に 候。.

これも かくのごとし.
此れも かくのごとし、.

あじゃせおうは ほとけの おんかたき なれども.
阿闍世王は 仏の 御かたき なれども.

その うちに ありし ぎばだいじん ほとけに こころざし ありて つねに くよう ありしかば.
其の 内に ありし 耆婆大臣・仏に 志 ありて 常に 供養 ありしかば.

その こう だいじんに きすと こそ みえて そうらえ.
其の 功 大王に 帰すと こそ 見へて 候へ、.

ぶっぽうの なかに ないくんげごと もうす おおいなる だいじ ありて しゅうろんにて そうろう.
仏法の 中に 内薫外護と 申す 大なる 大事 ありて 宗論にて 候、.

ほけきょうには「われ ふかく なんだちを うやまう」.
法華経には「我 深く 汝等を 敬う」.

ねはんぎょうには「いっさいしゅじょう ことごとく ぶっしょう あり」.
涅槃経には「一切衆生 悉く 仏性 有り」.

めみょうぼさつの きしんろんには.
馬鳴菩薩の 起信論には.

「しんにょの ほう つねに くんじゅうするを もっての ゆえに もうしん そくめつして ほっしん けんげんす」.
「真如の 法 常に 薫習するを 以ての 故に 妄心 即滅して 法身 顕現す」.

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みろくぼさつの ゆがろんには みえたり.
弥勒菩薩の 瑜伽論には 見えたり、.

かくれたる ことの あらわれたる とくと なり そうろうなり.
かくれたる 事の あらはれたる 徳と なり 候なり、.

されば おんうちの ひとびとには てんま ついて さきより この ことを しりて.
されば 御内の 人人には 天魔 ついて 前より 此の 事を 知りて.

とのの この ほうもんを くようするを ささえんが ために.
殿の 此の 法門を 供養するを ささえんが ために.

こんどの だいもうごをば つくり いだし たりしを.
今度の 大妄語をば 造り 出だし たりしを.

ごしんじん ふかければ じゅうらせつ たすけ たてまつらんが ために この やまいは おこれるか.
御信心 深ければ 十羅刹 たすけ 奉らんが ために 此の 病は をこれるか、.

かみは わが かたきとは おぼさねども.
上は 我が かたきとは・をぼさねども.

いったん かれらが もうす ことを もちい たまい ぬるに よりて.
一たん・かれらが 申す 事を 用い 給い ぬるに よりて.

ごしょろうの だいじに なりて ながしらせ たまうか.
御しよらうの 大事に なりて・ながしらせ 給うか、.

かれらが はしらと たのむ りゅうぞう すでに たおれぬ.
彼等が 柱と たのむ 竜象 すでに たうれぬ、.

わざんせし ひとも また その やまいに おかされぬ.
和讒せし 人も 又 其の 病に をかされぬ、.

りょうかんは また いちじゅうの だいかの もの なれば.
良観は 又 一重の 大科の 者 なれば.

だいじに あうて だいじを ひきおこして いかにも なり そうらわんずらん.
大事に 値うて 大事を・ひきをこして・いかにも なり 候はんずらん、.

よも ただは そうらわじ.
よも ただは 候はじ。.

これに つけても とのの おんみも あぶなく おもい まいらせ そうろうぞ.
此れに つけても 殿の 御身も あぶなく 思い まいらせ 候ぞ、.

いちじょう かたきに ねらわれさせ たまいなん.
一定 かたきに・ねらはれさせ 給いなん・.

すぐろくの いしは ふたつ ならび ぬれば かけられず.
すぐろくの 石は 二つ 並び ぬれば かけられず.

くるまの わは ふたつ あれば みちに かたぶかず.
車の 輪は 二 あれば 道に かたぶかず、.

かたきも 2にん ある ものをば いぶせがり そうろうぞ.
敵も 二人 ある 者をば・いぶせがり 候ぞ、.

いかに とが ありとも おとうと ども しばらくも みを はなち たまうな.
いかに とが ありとも 弟 ども 且くも 身を はなち 給うな、.

とのは いちじょう はら あしき そう かおに あらわれたり.
殿は 一定・腹 あしき 相 かをに 顕れたり、.

いかに だいじと おもえども はら あしき ものをば てんは まもらせ たまわぬと しらせ たまえ.
いかに 大事と 思へども 腹 あしき 者をば 天は 守らせ 給はぬと 知らせ 給へ・.

とのの ひとに あだまれて おわさば たとい ほとけには なり たまうとも かれらが よろこびと いう.
殿の 人に あだまれて・をはさば 設い 仏には・なり 給うとも 彼等が 悦びと 云う、.

これよりの なげきと もうし くちおしかるべし.
此れよりの 歎きと 申し 口惜しかるべし、.

かれらが いかにも せんと はげみつるに.
彼等が・いかにも せんと・はげみつるに、.

いにしえよりも かみに ひきつけられ まいらせて おわすれば.
古よりも 上に 引き付けられ まいらせて・をはすれば・.

そとの すがたは しずまりたる ように あれども うちの むねは もうる ばかりにや あらん.
外の すがたは しづまりたる 様に あれども 内の 胸は・もふる 計りにや 有らん、.

つねには かれらに みえぬ ようにて いにしえよりも いえの こを うやまい.
常には 彼等に 見へぬ 様にて 古よりも 家の こを 敬ひ・.

きんだち まいらせ たまいて おわさんには かみの めし ありとも しばらく つつしむべし.
きうだち まいらせ 給いて・をはさんには 上の 召し ありとも 且く・つつしむべし、.

にゅうどうどの いかにも ならせ たまわば.
入道殿 いかにも ならせ 給はば.

かの ひとびとは まどい ものに なるべきをば かえりみず.
彼の 人人は・まどひ 者に なるべきをば・かへりみず、.

もの おぼえぬ こころに とのの いよいよ きたるを みては.
物 をぼへぬ 心に・とのの いよいよ 来るを 見ては.

いちじょう ほのおを むねに たき いきを さかさまに つくらん.
一定 ほのをを 胸に たき いきを さかさまに つくらん、.

もし きんだち きりものの にょうぼうたち.
若し きうだち きり者の 女房たち・.

いかに かみの ごしょろうはと とい もうされば いかなる ひとにても そうらえ.
いかに 上の 御そろうはと 問い 申されば、いかなる 人にても 候へ・.

ひざを かがめて てを あわせ それがしが ちからの およぶべき ごしょろうには そうらわず そうろうを.
膝を かがめて 手を 合せ 某が 力の 及ぶべき 御所労には 候はず 候を・.

いかに じたい もうせども ただと おおせ そうらえば みうちの ものにて そうろう あいだ.
いかに 辞退 申せども・ただと 仰せ 候へば 御内の 者にて 候 間・.

かくて そうろうとて びんをも かかず ひたたれ こわからず.
かくて 候とて びむをも・かかず ひたたれ こはからず、.

さわやかなる こそで いろ ある もの なんども きずして.
さはやかなる 小袖・色 ある 物 なんども・きずして.

しばらく ねうじて ごらんあれ.
且く・ねうじて 御覧あれ。.

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かえすがえす おんこころへの うえ なれども まつだいの ありさまを ほとけの とかせ たまいて そうろうには.
返す返す 御心への 上 なれども 末代の ありさまを 仏の 説かせ 給いて 候には.

じょくせには しょうにんも こしがたし.
濁世には 聖人も 居しがたし.

たいかの なかの いしの ごとし.
大火の 中の 石の 如し、.

しばらくは こらうる ようなれども ついには やけく だけて はいと なる.
且くは・こらふる やうなれども 終には・やけく だけて 灰と なる、.

けんじんも ごじょうは くちに ときて みには ふるまい がたしと みえて そうろうぞ.
賢人も 五常は 口に 説きて 身には 振舞い がたしと 見へて 候ぞ、.

こうの ざをば されと もうすぞかし.
かうの 座をば 去れと 申すぞかし、.

そこばくの ひとの とのを つくり おとさんと しつるに おとされずして.
そこばくの 人の 殿を 造り 落さんと しつるに をとされずして・.

はやか ちぬる みが おんびん ならずして.
はやか ちぬる 身が 穏便 ならずして.

つくり おとされなば せけんに もうす こぎこいでの ふね こぼれ.
造り 落されなば 世間に 申す こぎこひでの 船 こぼれ.

また じきの のちに ゆの なきが ごとし.
又 食の 後に 湯の 無きが 如し、.

かみより へやを たまいて こして おわせば そこにては なにごと なくとも.
上より へやを 給いて 居して・をはせば 其処にては 何事 無くとも.

ひぐれ あかつきなんど いり かえりなんどに さだめて ねらうらん.
日ぐれ 暁なんど 入り 返りなんどに 定めて・ねらうらん、.

また わが やの つまどの わき じぶつどう いえの うちの いたじきの したか てんじょう なんどをば.
又 我が 家の 妻戸の 脇・持仏堂・家の 内の 板敷の 下か・天井 なんどをば、.

あながちに こころえて ふるまい たまえ.
あながちに・心えて 振舞い 給へ、.

このたびは さきよりも かれらは たばかり かしこかるらん.
今度は さきよりも 彼等は・たばかり 賢かるらん、.

いかに もうすとも かまくらの えがら よまわりの とのばらには すぎじ.
いかに 申すとも 鎌倉の えがら 夜廻りの 殿原には すぎじ、.

いかに こころに あわぬこと ありとも かたらい たまえ.
いかに 心に あはぬ事 有りとも・かたらひ 給へ。.

よしつねは いかにも へいけをば せめおとし がたかりしかども.
義経は いかにも 平家をば・せめおとし がたかりしかども・.

しげよしを かたらいて へいけを ほろぼし.
成良を かたらひて 平家を ほろぼし、.

たいしょうどのは おさだを おやの かたきと おぼせしかども.
大将殿は・おさだを 親の かたきと をぼせしかども.

へいけを おとさざりしには くびを きりたまわず.
平家を 落さざりしには 頚を 切り給はず、.

いわんや この 4にんは とおくは ほけきょうの ゆえ.
況や 此の 四人は 遠くは 法華経の ゆへ.

ちかくは にちれんが ゆえに いのちを かけたる やしきを かみへ めされたり.
近くは 日蓮が ゆへに 命を 懸けたる やしきを 上へ 召されたり、.

にちれんと ほけきょうを しんずる ひとびとをば.
日蓮と 法華経とを 信ずる 人人をば.

さきざき かの ひとびと いかなる こと ありとも かえりみ たまうべし.
前前・彼の 人人 いかなる 事 ありとも・かへりみ 給うべし、.

その うえ とのの いえへ この ひとびと つねに かようならば.
其の 上 殿の 家へ 此の 人人・常に かようならば・.

かたきは よる ゆきあわじと おじるべし.
かたきは よる 行きあはじと・をぢるべし、.

させる おやの かたき ならねば あらわれてとは よも おもわじ.
させる 親の かたき ならねば 顕われてとは・よも 思はじ、.

かくれん ものは これ ほどの へいしは なきなり.
かくれん 者は 是れ 程の 兵士は なきなり、.

つねに むつばせ たまえ.
常に むつばせ 給へ、.

とのは はら あしき ひとにて よも もちいさせ たまわじ.
殿は 腹 悪き 人にて よも 用ひさせ 給はじ、.

もし さるならば にちれんが いのりの ちから およびがたし.
若し さるならば 日蓮が 祈りの 力 及びがたし、.

りゅうぞうと とのの あにとは とのの おんためには あしかりつる ひと ぞかし.
竜象と 殿の 兄とは 殿の 御ためには あしかりつる 人 ぞかし.

てんの おんはからいに とのの みこころの ごとく なるぞかし.
天の 御計いに 殿の 御心の 如く なるぞかし.

いかに てんの みこころに そむかんとは おぼするぞ.
いかに 天の 御心に 背かんとは をぼするぞ.

たとい せんまんの たからを みちたりとも かみに すてられ まいらせ たまいては なんの せんか あるべき.
設い 千万の 財を みちたりとも 上に すてられ まいらせ 給いては 何の 詮か あるべき・.

すでに かみには おやの ように おもわれ まいらせ.
已に 上には をやの 様に 思はれ まいらせ.

みずの うつわに したがうが ごとく.
水の 器に 随うが 如く.

こうしの ははを おもい おいの つえを たのむが ごとく.
こうしの 母を 思ひ 老者の 杖を たのむが 如く・.

しゅの とのを おぼしめされたるは ほけきょうの おんたすけに あらずや.
主の とのを 思食されたるは 法華経の 御たすけに あらずや、.

あら うらやましやとこそ おんみの ひとびとは おもわるるらめ.
あら うらやましやとこそ 御内の 人人は 思はるるらめ・.

とくとく この 4にん かたらいて.
とくとく 此の 四人 かたらひて.

にちれんに きかせ たまえ さるならば ごうじょうに てんに もうすべし.
日蓮に きかせ 給へ さるならば 強盛に 天に 申すべし、.

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また とのの こ おんちち おんははの おんことも.
又 殿の 故・御父・御母の 御事も.

さえもんのじょうが あまりに なげき そうろうぞと てんにも もうし いれて そうろうなり.
左衛門の尉が あまりに 歎き 候ぞと 天にも 申し 入れて 候なり、.

さだめて しゃかぶつの おんまえに しさい そうろうらん.
定めて 釈迦仏の 御前に 子細 候らん。.

かえすがえす いまに わすれぬ ことは くび きれんと せし とき.
返す返す 今に 忘れぬ 事は 頚 切れんと せし 時.

とのは ともして うまの くちに つきて なきかなしみ たまいしをば.
殿は ともして 馬の 口に 付きて・なきかなしみ 給いしをば・.

いかなる よにか わすれなん.
いかなる 世にか 忘れなん、.

たとい とのの つみ ふかくして じごくに いりたまわば.
設い 殿の 罪 ふかくして 地獄に 入り給はば.

にちれんを いかに ほとけに なれと しゃかぶつ こしらえさせ たまうとも もちいまいらせ そうろうべからず.
日蓮を・いかに 仏に なれと 釈迦仏 こしらへさせ 給うとも 用ひまいらせ 候べからず.

おなじく じごく なるべし.
同じく 地獄 なるべし、.

にちれんと とのと ともに じごくに いるならば.
日蓮と 殿と 共に 地獄に 入るならば.

しゃかぶつ ほけきょうも じごくにこそ おわしまさずらめ.
釈迦仏・法華経も 地獄にこそ・をはしまさずらめ、.

やみに つきの いるが ごとく ゆに みずを いるるが ごとく.
暗に 月の 入るが ごとく 湯に 水を 入るるが ごとく.

こおりに ひを たくが ごとく にちりんに やみを なぐるが ごとく こそ そうらわんずれ.
冰に 火を・たくが ごとく・日輪に やみを なぐるが 如く こそ 候はんずれ、.

もし すこしも この ことを たがえさせ たまう ならば にちれん うらみさせ たまうな.
若し すこしも 此の 事を たがへさせ 給う ならば 日蓮 うらみさせ 給うな。.

この せけんの えきびょうは とのの もうすが ごとく.
此の 世間の 疫病は・とのの まうすが ごとく.

とし かえりなば かみへ あがりぬと おぼえ そうろうぞ.
年 帰りなば 上へ あがりぬと・をぼえ 候ぞ、.

じゅうらせつの おんはからいか.
十羅刹の 御計いか.

いま しばらく よに おわして ものを ごらん あれかし.
今 且く 世に をはして 物を 御覧 あれかし、.

また せけんの すぎえぬ ようばし なげいて ひとに きかせ たまうな.
又 世間の・すぎえぬ・やうばし 歎いて 人に 聞かせ 給うな、.

もし さるならば けんじんには はづれたる ことなり.
若し さるならば 賢人には・はづれたる 事なり、.

もし さるならば さいしが あとに とどまりて はじを いうとは おもわねども.
若し さるならば 妻子が あとに・とどまりて はぢを 云うとは 思はねども、.

おとこの わかれの おしさに たにんに むかいて わが おっとの はじを みな かたる なり.
男の わかれの おしさに 他人に 向いて 我が 夫の はぢを・みな かたる なり、.

これ ひとりに かれが とがには あらず.
此れ 偏に・かれが 失には あらず.

わが ふるまいの あしかりつる ゆえなり.
我が ふるまひの あしかりつる 故なり。.

じんしんは うけがたし つめの うえの つち じんしんは たもちがたし くさの うえの つゆ.
人身は 受けがたし 爪の 上の 土・人身は 持ちがたし 草の 上の 露、.

120まで たもちて なを くたして しせん よりは.
百二十まで 持ちて 名を・くたして 死せん よりは.

いきて 1にち なりとも なを あげん ことこそ たいせつ なれ.
生きて 一日 なりとも 名を あげん 事こそ 大切 なれ、.

なかつかささぶろうさえもんのじょうは しゅの おんためにも.
中務三郎左衛門尉は 主の 御ためにも.

ぶっぽうの おんためにも せけんの こころねも よかりけり よかりけりと.
仏法の 御ためにも 世間の 心ねも よかりけり・よかりけりと.

かまくらの ひとびとの くちに うたわれ たまえ.
鎌倉の 人人の 口に うたはれ 給へ、.

あなかしこ あなかしこ.
穴賢・穴賢、.

くらの たからよりも みの たから すぐれたり みの たから より こころの たから だいいち なり.
蔵の 財よりも 身の 財 すぐれたり 身の 財 より 心の 財 第一 なり、.

この ごもんを ごらん あらんよりは こころの たからを つませ たまうべし.
此の 御文を 御覧 あらんよりは 心の 財を つませ 給うべし。.

だいいちひぞうの ものがたり あり かきて まいらせん.
第一秘蔵の 物語 あり 書きて まいらせん、.

にほん はじまりて こくおう 2にん ひとに ころされ たまう.
日本 始りて 国王 二人・人に 殺され 給う、.

その ひとりは すしゅんてんのう なり.
其の 一人は 崇峻天皇 なり、.

この おうは きんめいてんのうの おんたいし しょうとくたいしの おじ なり.
此の 王は 欽明天皇の 御太子・聖徳太子の 伯父 なり、.

にんのう だい33だいの みかどにて おわせしが.
人王 第三十三代の 皇にて・をはせしが.

しょうとくたいしを めして ちょくせん くださる.
聖徳太子を 召して 勅宣 下さる、.

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b1174

なんじは せいちの ものと きく.
汝は 聖智の 者と 聞く.

ちんを そうして まいらせよと うんぬん.
朕を 相して まいらせよと 云云、.

たいし 3たびまで じたい もうさせ たまい しかども.
太子 三度まで 辞退 申させ 給い しかども.

しきりの ちょくせん なれば やみがたくして うやまいて そうし まいらせ たまう.
頻の 勅宣 なれば 止みがたくして 敬いて 相し まいらせ 給う、.

きみは ひとに ころさせ たまうべき そう ましますと おうの みけしき かわらせ たまいて.
君は 人に 殺され 給うべき 相 ましますと、王の 御気色 かはらせ 給いて・.

なにと いう しょうこを もって この ことを しんずべき.
なにと 云う 証拠を 以て 此の 事を 信ずべき、.

たいし もうさせ たまわく おんまなこに あかき すじ とおりて そうろう ひとに あだまるる そう なり.
太子 申させ 給はく 御眼に 赤き 筋 とをりて 候 人に あだまるる 相 なり、.

みかど ちょくせんを かさねて くだし いかにしてか この なんを まぬかれん.
皇帝 勅宣を 重ねて 下し・いかにしてか 此の 難を 脱れん、.

たいしの いわく のがれ がたし.
太子の 云く 免脱 がたし.

ただし ごじょうと もうす つわもの あり.
但し 五常と 申す つはもの あり.

これを みに はなし たまわずば がいを まぬかれ たまわん.
此れを 身に 離し 給わずば 害を 脱れ 給はん、.

この つわものをば ないてんには にんはらみつと もうして ろくはらみつの その ひとつなりと うんぬん.
此の つはものをば 内典には 忍波羅蜜と 申して 六波羅蜜の 其の 一なりと 云云、.

しばらくは これを たもち たまいて おわせしが.
且くは 此れを 持ち 給いて をはせしが・.

ややもすれば はら あしき おうにて これを やぶらせ たまいき.
ややもすれば 腹 あしき 王にて 是を 破らせ 給いき、.

あるとき ひと いの こを まいらせたり しかば.
或時 人・猪の 子を まいらせたり しかば・.

こうがいを ぬきて いのこの めを づぶづぶと ささせ たまいて いつか.
こうがいを ぬきて 猪の子の 眼を づぶづぶと・ささせ 給いて いつか・.

にくしと おもう やつを かくせんと おおせ ありしかば.
にくしと 思う やつを かくせんと 仰せ ありしかば、.

たいし その ざに おわせしが.
太子 其の 座に をはせしが、.

あら あさましや あさましや きみは いちじょう ひとに あだまれ たまいなん.
あら あさましや・あさましや・君は 一定 人に あだまれ 給いなん、.

この みことばは みを がいする つる ぎなりとて たいし おおくの たからを とりよせて.
此の 御言は 身を 害する 剣 なりとて 太子 多くの 財を 取り寄せて.

おんまえに この ことばを ききし ものに おんひきでもの あり しかども.
御前に 此の 言を 聞きし 者に 御ひきで物 あり しかども、.

あるひと そがの だいじん うまこと もうせし ひとに かたりしかば.
有人 蘇我の 大臣・馬子と 申せし 人に 語りしかば.

うまこ わが こと なりとて あづまあやのあたいごま あたいいわいと もうす ものの こを かたらいて おうを がいし まいらせつ.
馬子 我が 事 なりとて 東漢直駒・直磐井と 申す 者の 子を かたらひて 王を 害し まいらせつ、.

されば おういの みなれども おもう ことをば たやすく もうさぬぞ.
されば 王位の 身なれども 思う 事をば・たやすく 申さぬぞ、.

こうしと もうせし けんじんは くしいちごんとて ここの たび おもいて ひとたび もうす.
孔子と 申せし 賢人は 九思一言とて ここの たび おもひて 一度 申す、.

しゅうこうたんと もうせし ひとは ゆあみする ときは みたび にぎり しょくする ときは みたび はき たまいき.
周公旦と 申せし 人は 沐する 時は 三度 握り 食する 時は 三度 はき 給いき、.
 
たしかに きこしめせ わればし うらみさせ たまうな.
たしかに・きこしめせ 我ばし 恨みさせ 給うな.

ぶっぽうと もうすは これにて そうろうぞ.
仏法と 申すは 是にて 候ぞ。.

いちだいの かんじんは ほけきょう ほけきょうの かんじんは ふきょうぼんにて そうろうなり.
一代の 肝心は 法華経・法華経の 修行の 肝心は 不軽品にて 候なり、.

ふきょうぼさつの ひとを うやまいしは いかなる ことぞ.
不軽菩薩の 人を 敬いしは・いかなる 事ぞ.

きょうしゅしゃくそんの しゅっせの ほんかいは ひとの ふるまいにて そうらいけるぞ.
教主釈尊の 出世の 本懐は 人の 振舞にて 候けるぞ、.

あなかしこ あなかしこ.
穴賢・穴賢、.

かしこきを ひとと いい はかなきを ちくと いう.
賢きを 人と 云い はかなきを 畜と いふ。.

けんじ 3ねん ひのとうし 9がつ 11にち.
建治 三年 丁丑 九月 十一日.

にちれん かおう.
日蓮 花押.

しじょうさえもんのじょうどの ごへんじ.
四条左衛門尉殿 御返事.

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