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千日尼御返事(せんにちあま ごへんじ)
別名、孝子財御書(こうし たから ごしょ).
日蓮大 聖人 59歳御作.

 

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せんにちあま ごへんじ.
千日尼 御返事.

こうあん 3ねん 7がつ ふつか 59さい おんさく.
弘安 三年 七月 二日 五十九歳 御作.

あたう あぶつぼうあま.
与 阿仏房尼.

ついしん きぬの そめけさ ひとつ まいらせ そうろう.
追伸、 絹の 染袈裟 一つ まいらせ 候、.

ぶんごごぼうに もうし そうろうべし すでに ほうもん にほんこくに ひろまりて そうろう.
豊後房に 申し 候べし・ 既に 法門・ 日本国に ひろまりて 候、.

ほくりくどうをば ぶんごぼう なびく べきに がくしょう ならでは かなう べからず.
北陸道をば 豊後房 なびく べきに 学生 ならでは 叶う べからず・.

9がつ 15にち いぜんに いそぎ いそぎ まいるべし.
九月 十五日 已前に・ いそぎ いそぎ まいるべし、.

こうにゅうどうどの あまごぜんの こと なげき いって そうろう.
こう入道殿の 尼ごぜんの 事 なげき 入つて 候、.

また こいし こいしと もうし つたえさせ たまえ.
又 こいし こいしと 申し つたへさせ 給へ、.

かずの しょうぎょうをば にっきの ごとく たんばぼうに いそぎ いそぎ つかわすべし.
かずの 聖教をば 日記の ごとく たんば房に いそぎ いそぎ つかわすべし、.

やまぶしをば これより もうすに したがいて これへわ わたすべし.
山伏房をば これより 申すに したがいて これへは・ わたすべし、.

やまぶしの げんに あだまれ そうろうこと よろこびいって そうろう.
山伏の 現に あだまれ 候事 悦び 入つて 候。.

がもく 1かん500もん のり わかめ ほしい しなじなの もの たび そうらい おわんぬ.
鵞目 一貫五百文 のり わかめ ほしい しなじなの 物 給び 候い 了んぬ、.

ほけきょうの ごほうぜんに もうし あげて そうろう.
法華経の 御宝前に 申し 上げて 候、.

ほけきょうに いわく.
法華経に 云く.

「もし ほうを きく もの あらば ひとりとして じょうぶつ せざること なし」うんぬん.
「若し 法を 聞く 者 有らば 一として 成仏 せざること 無し」云云、.

もんじは じゅうじにて そうらえども ほけきょうを いっく よみまいらせ そうらえば.
文字は 十字にて 候へども 法華経を 一句 よみまいらせ 候へば・.

しゃかにょらいの いちだいしょうぎょうを のこりなく よむにて そうろうなるぞ.
釈迦如来の 一代聖教を のこりなく 読むにて 候なるぞ、.

ゆえに みょうらくだいしの いわく.
故に 妙楽大師の 云く.

「もし ほっけを ひろむるは およそ 1ぎを しょうするも みな 1だいを こんじて その しまつを きわめよ」とう うんぬん.
「若し 法華を 弘むるは 凡そ 一義を 消するも 皆 一代を 混じて 其の 始末を 窮めよ」等 云云、.

しと もうすは けごんきょう まつともうすは ねはんぎょう けごんきょうと もうすは ほとけ.
始と 申すは 華厳経・ 末と 申すは 涅槃経 華厳経と 申すは 仏・.

さいしょ じょうどうの とき ほうえ くどくりんとうの だいぼさつ.
最初 成道の 時・ 法慧・ 功徳林等の 大菩薩・.

げだつがつぼさつと もうす ぼさつの しょうに おもむいて ぶつぜんにて とかれて そうろう.
解脱月菩薩と 申す 菩薩の 請に 趣いて 仏前にて とかれて 候、.

そのきょうは てんじく りゅうぐうじょう とそつてんとうは しらず.
其の 経は 天竺・ 竜宮城・ 兜率天等は 知らず.

にほんこくに わたりて そうろうは 60かん 80かん 40かん そうろう.
日本国に わたりて 候は 六十巻・ 八十巻・ 四十巻 候、.

まつと もうすは だいねはんぎょう これも がっし りゅうぐう とうは しらず.
末と 申すは 大涅槃経・ 此れも 月氏・ 竜宮 等は 知らず.

わが ちょうには 40かん 36かん 6かん 2かん とう なり.
我が 朝には 四十巻・ 三十六巻・ 六巻・ 二巻 等 なり、.

これより ほかの あごんきょう ほうどうきょう はんにゃきょうとうは 5せん 7せんよかん なり.
此れより 外の 阿含経・ 方等経・ 般若経等は 五千・ 七千余巻 なり、.

これらの きょうぎょうは みず きかず そうらえども.
此れ等の 経経は 見ず・ きかず 候へども.

ただ ほけきょうの 1じ いっく よみ そうらえば.
但 法華経の 一字・ 一句 よみ 候へば.

かれがれの きょうぎょうを 1じも おとさず よむにて そうろうなるぞ.
彼れ彼れの 経経を 一字も・ をとさず・ よむにて 候なるぞ、.

たとえば がっし にほんと もうすは 2じ.
譬へば 月氏 日本と 申すは 二字・.

2じに 5てんじく 16の たいこく 500のちゅうごく 10せんの しょうこく.
二字に 五天竺・ 十六の 大国・五百の 中国・ 十千の 小国・.

むりょうの ぞくさんこくの だいち だいせん そうもく じんちくとう おさまれるが ごとし.
無量の 粟散国の 大地・ 大山・ 草木・ 人畜等 をさまれるが ごとし、.

たとえば かがみは わずかに 1すん 2すん 3すん 4すん 5すんと そうらえども.
譬へば 鏡は わづかに 一寸・ 二寸・ 三寸・ 四寸・ 五寸と 候へども・.

いっしゃく 5しゃくの ひとをも うかべ.
一尺 五尺の 人をも うかべ・.

1じょう 2じょう 10じょう 100じょうの だいせんをも うつすが ごとし.
一丈・ 二丈・ 十丈・ 百丈の 大山をも うつすが ごとし。.

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されば この きょうもんを よみて み そうらえば.
されば 此の 経文を よみて 見 候へば.

この きょうを きく ひとは 1にんも かけず ほとけに なると もうす もん なり.
此の 経を きく 人は 一人も かけず 仏に なると 申す 文 なり、.

9かい 6どうの いっさいしゅじょう おのおの こころごころ かわれり.
九界・ 六道の 一切衆生・ 各各・ 心心 かわれり、.

たとえば 2にん 3にん ないし 100せんにん そうらえども.
譬へば 二人・ 三人・ 乃至 百千人 候へども.

いっしゃくの かおの うちしちに にたる ひと 1にんも なし.
一尺の 面の 内しちに にたる 人 一人も なし、.

こころの にざる ゆえに かおも にず.
心の にざる ゆへに 面も にず、.

まして 2にん 10にん 6どう 9かいの しゅじょうの こころ いかんが かわりて そうろうらん.
まして 二人・ 十人・ 六道・ 九界の 衆生の 心 いかんが・ かわりて 候らむ、.

されば はなを あいし つきを あいし すきを このみ.
されば 花を あいし・ 月を あいし・ すきを このみ・.

にがきを このみ ちいさきを あいし だいなるを あいし いろいろなり.
にがきを このみ・ちいさきを あいし・ 大なるを あいし・ いろいろなり、.

ぜんを このみ あくを このみ しなじな なり.
善を このみ 悪を このみ・ しなじな なり、.

かくの ごとく いろいろに そうらえども.
かくの ごとく・ いろいろに 候へども・.

ほけきょうに いりぬれば ただ 1にんの み 1にんの こころ なり.
法華経に 入りぬれば 唯 一人の 身 一人の 心 なり、.

たとえば しゅかの だいかいに いりて どういつ かんみ なるが ごとく.
譬へば 衆河の 大海に 入りて 同一 鹹味 なるが ごとく・.

しゅちょうの しゅみせんに ちかずきて ひといろ なるが ごとし.
衆鳥の 須弥山に 近ずきて 一色 なるが ごとし、.

だいばが 3ぎゃくも らごらが 250かいも おなじく ほとけに なりぬ.
提婆が 三逆も 羅ご羅が 二百五十戒も 同じく 仏に なりぬ、.

みょうしょうごんのうの じゃけんも しゃりほつが しょうけんも おなじく じゅきを かおほれり.
妙荘厳王の 邪見も 舎利弗が 正見も 同じく 授記を かをほれり、.

これ すなわち むいち ふじょうぶつの ゆえぞかし.
此れ 即ち 無一 不成仏の ゆへぞかし、.

40よねんの うちの あみだきょう とうには.
四十余年の 内の 阿弥陀経 等には.

しゃりほつが 7かの 100まんべん だいぜんこんを とかれ しかども.
舎利弗が 七日の 百万反・ 大善根を・ とかれし かども.

みけんしんじつと きらわれしかば 7か ゆを わかして だいかいに なげたるが ごとし.
未顕真実と きらわれしかば・ 七日 ゆを わかして 大海に なげたるが ごとし、.

いだいけが かんぎょうを よみて むしょうにんを え しかども.
ゐ提希が 観経を よみて 無生忍を 得 しかども.

しょうじきしゃほうべんと すてられ しかば.
正直捨方便と すてられ しかば・.

ほけきょうを しんぜずば かえって もとの にょにん なり.
法華経を 信ぜずば 返つて 本の 女人 なり、.

だいぜんを もちうること なし ほけきょうに あわざれば なにかせん.
大善を 用うる事 なし・ 法華経に 値わざれば なにかせん、.

だいあくをも なげく こと なかれ.
大悪をも 歎く 事 無かれ・.

1じょうを しゅぎょうせば だいばが あとをも つぎなん.
一乗を 修行せば 提婆が 跡をも つぎなん、.

これらは みな むいちふじょうぶつの きょうもん むなしからざる ゆえぞかし.
此等は 皆 無一不成仏の 経文の むなしからざる ゆへぞかし。.

されば こ あぶつぼうの しょうりょうは いま いずくにか おわすらんと.
されば 故 阿仏房の 聖霊は 今 いづくにか・ をはすらんと.

ひとは うたがうとも ほけきょうの みょうきょうを もって その かげを うかべて そうらえば.
人は 疑うとも 法華経の 明鏡を もつて 其の 影を うかべて 候へば.

りょうじゅせんの やまの なかに たほうぶつの ほうとうの うちに.
霊鷲山の 山の 中に 多宝仏の 宝塔の 内に.

ひがしむきに おわすと にちれんは み まいらせて そうろう.
東むきに をはすと 日蓮は 見 まいらせて 候、.

もし この こと そらごとにて そうらわば にちれんが ひがめにては そうらわず.
若し 此の 事 そらごとにて 候わば 日蓮が・ ひがめにては 候はず、.

しゃかにょらいの せそんほうくご ようとうせつしんじつの おんしたも.
釈迦如来の 世尊法久後・ 要当説真実の 御舌も・.

たほうぶつの みょうほけきょう かいぜしんじつの ぜっそうも.
多宝仏の 妙法華経・ 皆是真実の 舌相も.

400まんおくなゆたの こくどに あさの ごとく.
四百万億那由佗の 国土に あさの ごとく・.

いねの ごとく ほしの ごとく たけの ごとく ぞくぞくと.
いねの ごとく・ 星の ごとく・ 竹の ごとく・ ぞくぞくと・.

すきまも なく つらなって おわしましし しょぶつ にょらいの 1ぶつも かけ たまわず.
すきまも なく 列なつて をはしましし 諸仏 如来の 一仏も・ かけ 給はず、.

こうちょうぜつを だいぼんのうぐうに さし つけて おわせし おんした どもの くじらの しにて くされたるが ごとく.
広長舌を 大梵王宮に 指し 付けて・ をはせし 御舌 どもの くぢらの 死にて くされたるが ごとく・.

いわしの よりあつまりて くされたるが ごとく.
いわしの よりあつまりて・ くされたるが ごとく・.

みな 1じに くちく されて じっぽうせかいの しょぶつ にょらい だいもうごの つみに おとされて.
皆 一時に くちく されて 十方世界の 諸仏・ 如来・ 大妄語の 罪に をとされて・.

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じゃっこうの じょうどの こんるり だいち はたと われて だいばが ごとく.
寂光の 浄土の 金るり 大地 はたと・ われて 提婆が ごとく・.

むけんだいじょうに かっぱと いり.
無間大城に かつぱと 入り・.

ほうれんげびくにが ごとく みより だいもうごの もうか ぱと いでて.
法蓮香比丘尼が ごとく 身より 大妄語の 猛火 ぱと・ いでて・.

じっぽうけおうの はなの その 1じに かいじんの ちと なるべし.
実報華王の 花の その・ 一時に 灰燼の 地と なるべし、.

いかでか さる ことは そうろうべき.
いかでか・ さる 事は 候べき、.

こ あぶつぼう 1にんを じゃっこうの じょうどに いれ たまわずば.
故 阿仏房 一人を 寂光の 浄土に 入れ 給はずば.

しょぶつは だいくに おち たまうべし.
諸仏は 大苦に 堕ち 給うべし、.

ただ おいて ものを みよ ただ おいて ものを みよ.
ただ・ をいて 物を 見よ・ ただ をいて 物を 見よ、.

ほとけの まこと そらごとは これにて み たてまつる べし.
仏の まこと そら事は 此れにて 見 奉る べし、.

さては おとこは はしらの ごとし おんなは なかわの ごとし
さては をとこは はしらの ごとし 女は なかわの ごとし、

おとこは あしの ごとし にょにんは みの ごとし.
をとこは 足の ごとし・ 女人は 身の ごとし、.

おとこは はねの ごとし おんなは みの ごとし.
をとこは 羽の ごとし・ 女は みの ごとし、.

はねと みと べつべつに なりなば なにを もってか とぶべき.
羽と みと・ べちべちに・ なりなば・ なにを・ もつてか・ とぶべき、.

はしら たおれなば なかは ちに おちなん.
はしら たうれなば なかは 地に 堕ちなん、.

いえに おとこ なければ ひとの たましい なきが ごとし.
いへに をとこ なければ 人の たましゐ なきが ごとし、.

くうじを たれにか いいあわせん.
くうじを・ たれにか・ いゐあわせん、.

よき ものをば たれにか やしなうべき.
よき 物をば・ たれにか・ やしなうべき、.

1にち ふつか たがいしを だにも おぼつかなく おもいしに.
一日 二日 たがいしを・ だにも・ をぼつかなく・ をもいしに、.

こぞの 3がつの 21にちに わかれにしが.
こぞの 三月の 二十一日に・ わかれにしが・.

こぞも まち くらせど まみゆる こと なし.
こぞも まち くらせど まみゆる 事 なし、.

ことしも すでに 7つきに なりぬ.
今年も すでに 七つきに なりぬ、.

たとい われこそ きたらずとも いかに おとずれは なかるらん.
たとい・ われこそ 来らずとも・ いかに をとづれは なかるらん、.

ちりし はなも また さきぬ おちし このみも また なりぬ.
ちりし 花も 又 さきぬ・ おちし 菓も 又 なりぬ、.

はるの かぜも かわらず あきの けしきも こぞの ごとし.
春の 風も・ かわらず・ 秋の けしきも・ こぞの ごとし、.

いかに この 1じ のみ かわりゆきて もとの ごとく なかるらん.
いかに・ この 一事 のみ・ かわりゆきて 本の ごとく・ なかるらむ、.

つきは いりて また いでぬ くもは きえて また きたる.
月は 入りて 又 いでぬ・ 雲は きへて 又 来る、.

この ひとびとの いでて かえらぬ ことこそ てんも うらめしく ちも なげかしく そうらえ.
この 人人の 出でて かへらぬ 事こそ 天も・ うらめしく 地も なげかしく 候へ、.

さこそ おぼすらめ
さこそ をぼすらめ・

いそぎ いそぎ ほけきょうを ろうりょうと たのみ まいらせ たまいて.
いそぎ・ いそぎ 法華経を らうれうと・ たのみ まいらせ 給いて、.

りょうぜん じょうどへ まいらせ たまいて み まいらせさせ たまうべし.
りやうぜん 浄土へ・ まいらせ 給いて・ み まいらせさせ 給うべし。.

そもそも こは かたきと もうす きょうもんも あり.
抑 子は かたきと 申す 経文も あり.

「せじん この ために もろもろの つみを つくる」の もん なり.
「世人 子の 為に 衆の 罪を 造る」の 文 なり、.

くまたか わしと もうす とりは おやは じひを もって やしなえば こは かえりて じきと す.
くまたか・ 鷲と 申す とりは・ をやは 慈悲を もつて 養へば 子は・ かへりて 食と す・.

ふくろうと もうす とりは うまれては かならず ははを くらう.
梟鳥と 申す とりは 生れては 必ず 母を くらう、.

ちくしょう かくの ごとし.
畜生 かくの ごとし、.

ひとの なかにも はるりおうは こころも ゆかぬ ちちの くらいを うばい とる.
人の 中にも・ はるり王は 心も ゆかぬ 父の 位を 奪い 取る、.

あじゃせおうは ちちを ころせり.
阿闍世王は 父を 殺せり、.

あんろくさんは ようぼを ころし あんけいしょと もうす ひとは ちちの あんろくさんを ころす.
安禄山は 養母を ころし・ 安慶緒と 申す 人は 父の 安禄山を 殺す・.

あんけいしょは また ししめいに ころされぬ.
安慶緒は 又 史師明に 殺されぬ・.

ししめいは しちょうぎと もうす こに また ころされぬ.
史師明は 史朝義と 申す 子に 又 ころされぬ、.

これは かたきと もうすも ことわり なり.
此れは 敵と 申すも ことわり なり、.

ぜんしょうびくと もうすは きょうしゅ しゃくそんの みこ なり.
善星比丘と 申すは 教主 釈尊の 御子 なり、.

くとくげどうを かたらいて たびたび ちちの ほとけを ころし たてまつらんと す.
苦得外道を かたらいて 度度 父の 仏を 殺し 奉らんと す、.

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また こは たからと もうす きょうもんも はんべり.
又 子は 財と 申す 経文も・ はんべり・.

ゆえに きょうもんに いわく.
所以に 経文に 云く.

「その なんにょ おって ふくを しゅすれば だいこうみょう あって じごくを てらし.
「其の 男女 追つて 福を 修すれば 大光明 有つて 地獄を 照し.

その ふぼに しんじんを あらわさしむ」とうと もうす.
其の 父母に 信心を 顕さしむ」等と 申す、.

たとい ぶっせつ ならずとも まなこの まえに みえて そうろう.
設い 仏説 ならずとも 眼の 前に 見えて 候。.

てんじくに あんそくこくおうと もうせし だいおうは あまりに うまを このみて かいし ほどに.
天竺に 安足国王と 申せし 大王は・ あまりに 馬を このみて・ かいし ほどに・.

のちには かいなれて どんばを りゅうめと なす のみならず うしを うまとも なす.
後には・ かいなれて 鈍馬を 竜馬と なす のみならず・ 牛を 馬とも なす・.

けっくは ひとをうまと なして のり たまいき.
結句は 人を 馬と・ なして のり 給いき、.

その くにの ひと あまりに なげきしかば しらぬ くにの ひとを うまと なす.
其の 国の 人 あまりに・ なげきしかば 知らぬ 国の 人を 馬と なす、.

たこくの あきんどの ゆきたりしかば.
他国の 商人の・ ゆきたりしかば.

くすりを かいて うまと なして おんまように つなぎ つけぬ.
薬を かいて・ 馬と なして 御まやうに つなぎ・ つけぬ、.

なにと なけれども わが くには こいしき うえ.
なにと・ なけれども・ 我が 国は こいしき 上・.

さいし ことに こいしく しのびがたかり しかども.
妻子 ことに こいしく・ しのびがたかり しかども・.

ゆるす こと なかりしかば かえる こと なし.
ゆるす 事 なかりしかば・ かへる 事 なし、.

また かえり たりとも この すがたにては よし なかるべし.
又 かへり・ たりとも・ この すがたにては 由 なかるべし、.

ただ ちょうせきには なげき のみに して ありし ほどに.
ただ 朝夕には・ なげき のみに して・ ありし 程に・.

1にん ありし こ ちちの まちどき すぎしかば.
一人 ありし 子・ 父の まちどき すぎしかば・.

ひとにや ころされたるらん また やまいにや しずむらん.
人にや 殺されたるらむ 又 病にや 沈むらむ・.

この みとして いかでか ちちを たずねざる べきと いでたちければ.
子の 身として・ いかでか 父を たづねざる べきと・ いでたちければ・.

はは なげくらく おとこも たこくより かえらず.
母 なげくらく 男も 他国より・ かへらず・.

1にんの こも すてて ゆきなば われ いかんがせんと なげきしかども.
一人の 子も・ すてて・ ゆきなば 我 いかんがせんと・ なげきしかども・.

こ ちちの あまりに こいしかり しかば あんそくこくへ たずね ゆきぬ.
子 ちちの あまりに・ こいしかり しかば 安足国へ 尋ね ゆきぬ、.

ある こやに やどりて そうらいしかば.
ある 小屋に・ やどりて 候しかば.

いえの あるじ もうすよう あら ふびんや わどのは おさなき もの なり.
家の 主 申すやう・ あら ふびんや わどのは・ をさなき 物 なり.

しかも みめ かたち ひとに すぐれたり.
而も みめ かたち 人に すぐれたり、.

われに 1にんの こ ありしが たこくに ゆきて しにやしけん.
我に 一人の 子 ありしが 他国に ゆきて しにやしけん・.

また いかにてや あるらん.
又 いかにてや あるらむ、.

わが この ことを おもえば わどのを みて めも あてられず.
我が 子の 事を をもへば・ わどのを みて めも・ あてられず、.

いかにと もうせば この くには おおきなる なげき あり.
いかにと 申せば 此の 国は 大なる なげき 有り、.

この くにの だいおう あまり うまを このませ たまいて ふしぎの くさを もちい たまえり.
此の 国の 大王 あまり 馬を このませ 給いて 不思議の 草を 用い 給へり、.

1は せまき くさを くわすれば ひと うまと なる.
一葉 せばき 草を くわすれば 人・ 馬と なる、.

はの ひろき くさを くわすれば うま ひとと なる.
葉の 広き 草を くわすれば 馬・ 人と なる、.

ちかくも たこくの あきんどの ありしを この くさを くわせて うまと なして.
近くも 他国の 商人の 有りしを・ この 草を くわせて 馬と なして.

だい1の おんまやに ひぞうして つながれたりと もうす.
第一の 御まやに 秘蔵して・ つながれたりと 申す、.

この おとこ これを きいて さては わが ちちは うまと なりて けりと おもいて.
此の 男 これを きいて・ さては 我が 父は 馬と 成りて・ けりと をもひて・.

かえって とう.
返つて 問う.

その うまは けは いかにと といければ いえの あるじ こたえて いわく.
其の 馬は 毛は・ いかにと・ といければ・ 家の 主 答えて 云く.

くりげなる うまの かた しろく ぶちたりと もうす.
栗毛なる 馬の 肩 白く・ ぶちたりと 申す、.

この もの この ことを ききて とこう はからいて.
此の 物 此の 事を・ ききて・ とかう はからいて.

おうきゅうに ちかづき はの ひろき くさを ぬすみ とりて.
王宮に 近づき 葉の 広き 草を ぬすみ とりて・.

わが ちちの うまに なりたりしに.
我が 父の 馬に なりたりしに.

くわせ しかば もとの ごとく ひとと なりぬ.
食せ しかば 本の ごとく 人と なりぬ、.

その くにの だいおう ふしぎなる おもいを なして こうようの もの なりとて.
其の 国の 大王・ 不思議なる・ おもひを なして 孝養の 者 なりとて.

ちちを こに あずけ たまえり.
父を 子に・ あづけ 給へり、.

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それより ついに ひとを うまと なす ことは とどめ られぬ.
其れより ついに 人を 馬と なす 事は・ とどめ られぬ。.

こ ならずば いかでか たずね ゆくべき.
子 ならずば・ いかでか 尋ね ゆくべき、.

もくれんそんじゃは ははの がきの くを すくい.
目連尊者は 母の 餓鬼の 苦を すくひ.

じょうぞう じょうげんは ちちの じゃけんを ひるがえす.
浄蔵 浄眼は 父の 邪見を ひるがいす、.

これ よき この おやの たからと なる ゆえぞかし.
此れ よき 子の 親の 財と なる ゆへぞかし、.

しかるに こ あぶつしょうりょうは にほんこく ほっかいの しまの えびすの み なりしかども.
而るに 故 阿仏聖霊は 日本国・ 北海の 島の いびすの み なりしかども.

ごしょうを おそれて しゅっけして ごしょうを ねがいしが.
後生を をそれて 出家して 後生を 願いしが・.

このひと にちれんに あいて ほけきょうを たもち こぞの はる ほとけに なりぬ.
此の人 日蓮に 値いて 法華経を 持ち 去年の 春 仏に なりぬ、.

しだせんの やかんは ぶっぽうに あいて しょうを いとい.
尸陀山の 野干は 仏法に 値いて 生を いとひ.

しを ねがいて たいしゃくと うまれたり.
死を 願いて 帝釈と 生れたり、.

あぶつしょうにんは じょくせの みを いといて ほとけに なり たまいぬ.
阿仏上人は 濁世の 身を 厭いて 仏になり 給いぬ.、

その こ とうくろうもりつなは この あとを つぎて いっこう ほけきょうの ぎょうじゃと なりて.
其の 子 藤九郎守綱は 此の 跡を つぎて 一向 法華経の 行者と なりて・.

こぞは 7がつ 2か ちちの しゃりを くびに かけ.
去年は 七月 二日・ 父の 舎利を 頚に 懸け、.

いっせんりの さんかいを へて こうしゅう はきい みのぶさんに のぼりて.
一千里の 山海を 経て 甲州・ 波木井 身延山に 登りて.

ほけきょうの どうじょうに これを おさめ.
法華経の 道場に 此れを おさめ、.

ことしは また ふみづき ついたち みのぶさんに のぼりて じふの はかを はいけんす.
今年は 又 七月 一日 身延山に 登りて 慈父の はかを 拝見す、.

こに すぎたる たから なし こに すぎたる たから なし.
子に すぎたる 財 なし・ 子に すぎたる 財 なし.

なんみょうほうれんげきょう なんみょうほうれんげきょう.
南無妙法蓮華経・ 南無妙法蓮華経。.

7がつ ふつか にちれん かおう.
七月二日 日蓮 花押.

こ あぶつぼうあまごぜん ごへんじ.
故 阿仏房尼御前 御返事.

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