b1499から1503.
薬王品得意抄 (やくおうほん とくいしょう).
日蓮大聖人 44歳 御作.

 

b1499

やくおうほん とくいしょう.
薬王品 得意抄.

ぶんえい 2ねん 44さい おんさく.
文永 二年 四十四歳 御作.

あたう うえのときみつ つま.
与 上野時光 妻.

この やくおうほんの たいいとは この やくおうほんは だい7の まき.
此の 薬王品の 大意とは 此の 薬王品は 第七の 巻.

28ぽんの なかには だい23の ほん なり.
二十八品の 中には 第二十三の 品 なり.

この だい1かんに じょほん ほうべんぽんの 2ほん あり.
此の 第一巻に 序品 方便品の 二品 有り.

じょほんは 28ぽんの じょ なり.
序品は 二十八品の 序 なり.

ほうべんぽんより にんきほんに いたるまで 8ぽんは せいには にじょうさぶつを あかし.
方便品 より 人記品に 至るまで 八品は 正には 二乗作仏を 明し.

ぼうには ぼさつ ぼんぷの さぶつを あかす.
傍には 菩薩 凡夫の 作仏を 明かす.

ほっし ほうとう だいば かんじ あんらくの 5ほんは.
法師 宝塔 提婆 勧持 安楽の 五品は.

かみの 8ぽんを まつだいの ぼんぷの しゅぎょう すべき さまを とく なり.
上の 八品を 末代の 凡夫の 修行 す可き 様を 説く なり.

また ゆじゅっぽんは じゅりょうほんの じょ なり.
又 涌出品は 寿量品の 序 なり.

ふんべつくどくほん より 12ほんは せいには じゅりょうほんを まつだいの ぼんぷの ぎょうずべき さまを.
分別功徳品 より 十二品は 正には 寿量品を 末代の 凡夫の 行ず可き 様を.

ぼうには ほうべんぽん とうの はっぽんを しゅぎょう すべき さまを とく なり.
傍には 方便品 等の 八品を 修行 す可き 様を 説く なり.

しかれば この やくおうほんは ほうべんぽん とうの 8ぽん.
然れば 此の 薬王品は 方便品 等の 八品.

ならびに じゅりょうほんを しゅぎょう すべきさまを ときし ほん なり.
並びに 寿量品を 修行 す可き 様を 説きし 品 なり.

この ほんに 10の たとえ あり.
此の 品に 十の 譬 有り.

だい1 たいかいの たとえ.
第一 大海の 譬.

まず だい1の たとえを あらあら もうすべし.
先ず 第一の 譬を 粗 申す可し.

この なんえんぶだいに 2500の かわ あり.
此の 南閻浮提に 二千五百の 河 あり.

さいくやにに 5000の かわ あり.
西倶耶尼に 五千の 河 あり.

そうじて この してんげに 2まん5900の かわ あり.
総じて 此の 四天下に 二万五千九百の 河 あり.

あるいは 40り ないし 100り 1り 1ちょう 1ひろ とうの かわ これあり.
或は 四十里 乃至 百里 一里 一町 一尋 等の 河 之有り.

しかりと いえども この しょがは そうじて しんせんの こと たいかいに およばず .
然りと 雖も 此の 諸河は 総じて 深浅の 事 大海に 及ばず.

ほっけ いぜんの けごんきょう あごんきょう ほうどうきょう はんにゃきょう.
法華 已前の 華厳経 阿含経 方等経 般若経.

じんみつきょう あみだきょう ねはんぎょう だいにちきょう.
深密経 阿弥陀経 涅槃経 大日経.

こんごうちょうきょう そしっちきょう みつごんきょう とうの しゃかにょらいの しょせつの いっさいきょう.
金剛頂経 蘇悉地経 密厳経 等の 釈迦如来の 所説の 一切経.

だいにちにょらいの しょせつの いっさいきょう.
大日如来の 所説の 一切経.

あみだにょらいの しょせつの いっさいきょう.
阿弥陀如来の 所説の 一切経.

やくしにょらいの しょせつの いっさいきょう.
薬師如来の 所説の 一切経.

かこ げんざい みらい3ぜの しょぶつ しょせつの いっさいきょうの なかに ほけきょう だい1 なり.
過去 現在 未来 三世の 諸仏 所説の 一切経の 中に 法華経 第一 なり.

たとえば しょきょうは たいが ちゅうが しょうが とうの ごとし.
譬えば 諸経は 大河 中河 小河 等の 如し.

ほけきょうは たいかいの ごとし とうと とくなり.
法華経は 大海の 如し 等と 説くなり.

かわに すぐれたる たいかいに 10の とく あり.
河に 勝れたる 大海に 十の 徳 有り.

1に たいかいは ぜんじに ふかし かわは しからず.
一に 大海は 漸次に 深し 河は 爾からず.

2に たいかいは ししを とどめず かわは しからず.
二に 大海は 死屍を 留めず 河は 爾らず.

3に たいかいは ほんの みょうじを うしなう かわは しからず.
三に 大海は 本の 名字を 失う 河は 爾らず.

4に たいかいは 1み なり かわは しからず.
四に 大海は 一味 なり 河は 爾らず.

5に たいかいは たから など あり かわは しからず.
五に 大海は 宝等 有り 河は 爾らず.

6に たいかいは きわめて ふかし かわは しからず.
六に 大海は 極めて 深し 河は 爾らず.

7に たいかいは こうだいむりょう なり かわは しからず.
七に 大海は 広大無量 なり 河は 爾らず.

8に たいかいは だいしんの しゅじょう とう あり かわは しからず.
八に 大海は 大身の 衆生 等 有り 河は 爾らず.

9に たいかいは しおの ぞうげん あり かわは しからず.
九に 大海は 潮の 増減 有り 河は 爾らず.

10に たいかいは おおあめ たいがを うけて よういつ なし かわは しからず.
十に 大海は 大雨 大河を 受けて 盈溢 無し 河は 爾らず.

この ほけきょうには 10の とく あり.
此の 法華経には 十の 徳 有り.

しょきょうには 10の とが あり.
諸経には 十の 失 有り.

この きょうは ぜんじ じんたにして 50てんでん なり.
此の 経は 漸次 深多にして 五十展転 なり.

しょきょうには なお ひとつも なし.
諸経には 猶 一も 無し.

いわんや 2 3 し ないし 50てんでんをや.
況や 二 三 四 乃至 五十展転をや.

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かわは ふかけれども たいかいの あさきに およばず.
河は 深けれども 大海の 浅きに 及ばず.

しょきょうは 1じ いっく 10ねん とうを もって.
諸経は 一字 一句 十念 等を 以て.

10あく ごぎゃく とうの あっきを せっすと いえども.
十悪 五逆 等の 悪機を 摂すと 雖も.

いまだ 1じいっくの ずいき 50てんでんには およばざるなり.
未だ 一字一句の 随喜 五十展転には 及ばざるなり.

この きょうの たいかいに ししを とどめず とは.
此の 経の 大海に 死屍を 留めず とは.

ほけきょうに そむく ほうぼうの ものは ごくぜんの ひと なりと いえども なお これを すつ.
法華経に 背く 謗法の 者は 極善の 人 為りと 雖も 猶 之を 捨つ.

いかに いわんや あくにん なる うえ ほうぼうを なさん もの をや.
何に 況や 悪人 なる 上 謗法を 為さん 者をや.

たとい しょきょうを ぼうずと いえども ほけきょうに そむかざれば かならず ぶつどうを じょうず.
設い 諸経を 謗ずと 雖も 法華経に 背かざれば 必ず 仏道を 成ず.

たとい いっさいきょうを しんずと いえども ほけきょうに そむかば かならず あびだいじょうに おつ.
設い 一切経を 信ずと 雖も 法華経に 背かば 必ず 阿鼻大城に 堕つ.

ないし だい8には たいかいは たいしんの しゅじょう あり とうと いうは.
乃至 第八には 大海は 大身の 衆生 あり 等と 云うは.

たいかいには まかつだいぎょ とう たいしんの しゅじょう これ あり.
大海には 摩竭大魚 等 大身の 衆生 之 有り.

むけんじごくと もうすは じゅうこう 8まんゆじゅん なり.
無間地獄と 申すは 縦広 八万由旬 なり.

5ぎゃくの もの むけんじごくに おちては ひとりにて かならず じゅうまん す.
五逆の 者 無間地獄に 堕ちては 一人にて 必ず 充満 す.

この じごくの しゅじょうは 5ぎゃくの もの たいしんの しゅじょう なり.
此の 地獄の 衆生は 五逆の 者 大身の 衆生 なり.

しょきょうの しょうが たいがの なかには まかつだいぎょ これ なし.
諸経の 小河 大河の 中には 摩竭大魚 之 無し.

ほけきょうの たいかいには これ あり.
法華経の 大海には 之 有り.

5ぎゃくの もの ぶつどうを じょうず.
五逆の 者 仏道を 成ず.

これ じつには しょきょうに これ なし.
是れ 実には 諸経に 之 無し.

しょきょうに これ ありと いうと いえども じつには みけんしんじつ なり.
諸経に 之 有りと 云うと 雖も 実には 未顕真実 なり.

ゆえに いちだいせいきょうを そらんぜし てんだいちしゃだいしの しゃくに いわく. 
故に 一代聖教を 諳し 天台智者大師の 釈に 云く.

たきょうは ただ ぼさつに きして にじょうに きせず.
他経は 但 菩薩に 記して 二乗に 記せず.

ないし ただ ぜんに きして あくに きせず.
乃至 但 善に 記して 悪に 記せず.

こんきょうは みな きす とう うんぬん.
今経は 皆 記す 等 云云.

よは しばらく これを りゃくす.
余は 且く 之を 略す.

だい2には やまに たとう.
第二には 山に 譬う.

じっぽうせん とうとは やまの なかには しゅみせん だいいち なり.
十宝山 等とは 山の 中には 須弥山 第一 なり.

じっぽうせんとは 1には せっせん 2には こうせん.
十宝山とは 一には 雪山 二には 香山.

3には かりらせん 4には せんしょうせん.
三には 軻梨羅山 四には 仙聖山.

5には ゆけんだせん 6には めにせん.
五には 由乾陀山 六には 馬耳山.

7には にみんだらせん 8には しゃからせん.
七には 尼民陀羅山 八には 斫伽羅山.

9には しゅくえせん 10には しゅみせん なり.
九には 宿慧山 十には 須弥山 なり.

さきの きゅうせんとは しょきょう しょざんの ごとし.
先の 九山とは 諸経 諸山の 如し.

ただし いちいちに たから あり.
但し 一一に 財 あり.

しゅみせんは しゅうざいを ぐして その たからに すぐれたり.
須弥山は 衆財を 具して 其の 財に 勝れたり.

れいせば せけんの きんの えんぶだんごんに およばざるが ごとし.
例せば 世間の 金の 閻浮檀金に 及ばざるが 如し.

けごんきょうの ほうかいゆいしん はんにゃの 18くう だいにちきょうの 5そうじょうしん かんぎょうの おうじょう より.
華厳経の 法界唯心 般若の 十八空大 日経の 五相成身 観経の 往生 より.

ほけきょうの そくしんじょうぶつ すぐれたる なり.
法華経の 即身成仏 勝れたる なり.

しゅみせんは こんじき なり.
須弥山は 金色 なり.

いっさいの ぎゅうば にんてん しゅうちょう とう この やまに よれば かならず ほんじきを うしなって こんじき なり.
一切の 牛馬 人天 衆鳥 等 此の 山に 依れば 必ず 本色を 失つて金色 なり.

よざんは しからず.
余山は 爾らず.

いっさいの しょきょうは ほけきょうに よれば もとの いろを うしなう.
一切の 諸経は 法華経に 依れば 本の 色を 失う.

れいせば こくしょくの ものの にちげつの ひかりに あえば いろを うしなうが ごとし.
例せば 黒色の 物の 日月の 光に 値えば 色を 失うが 如し.

しょきょうの おうじょう じょうぶつとうの いろは ほけきょうに あえば かならず その ぎを うしなう.
諸経の 往生 成仏 等の 色は 法華経に 値えば 必ず 其の 義を 失う.

だい3には つきに たとう.
第三には 月に 譬う.

しゅうせいは あるいは はんり あるいは 1り あるいは 8り あるいは 16りには すぎず.
衆星は 或は 半里 或は 一里 或は 八里 或は 十六里には 過ぎず.

つきは 800より なり.
月は 八百余里 なり.

しゅうせいは ひかり ありと いえども つきに およばず.
衆星は 光 有りと 雖も 月に 及ばず.

たとい 100せんまんおく ないし 1 してんげ 3ぜんだいせん じっぽうせかいの しゅうせい これを あつむとも.
設い 百千万億 乃至 一 四天下 三千大千 十方世界の 衆星 之を 集むとも.

ひとつの つきの ひかりに およばずや.
一の 月の 光に 及ばずや.

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いかに いわんや ひとつの ほし つきの ひかりに およぶ べきや.
何に 況や 一の 星月の 光に 及ぶ 可きや.

けごんきょう あごんきょう ほうどう はんにゃ.
華厳経 阿含経 方等 般若.

ねはんぎょう だいにちきょう かんぎょう とうの いっさいの きょう.
涅槃経 大日経 観経 等の 一切の 経.

これを あつむとも ほけきょうの いちじに およばじ.
之を 集むとも 法華経の 一字に 及ばじ.

いっさいしゅじょうの しんちゅうの けんじ じんじゃ むみょうの 3わく.
一切衆生の 心中の 見思 塵沙 無明の 三惑.

ならびに 10あく 5ぎゃくとうの ごうは あんやの ごとし.
並に 十悪 五逆 等の 業は 暗夜の ごとし.

けごんきょう とうの いっさいきょうは あんやの ほしの ごとし.
華厳経 等の 一切経は 闇夜の 星の ごとし.

ほけきょうは あんやの つきの ごとし.
法華経は 闇夜の 月の ごとし.

ほけきょうを しんずれども ふかく しんぜざる ものは はんげつの あんやを てらすが ごとし.
法華経を 信ずれども 深く 信ぜざる 者は 半月の 闇夜を 照すが 如し.

ふかく しんずる ものは まんげつの あんやを てらすが ごとし.
深く 信ずる 者は 満月の 闇夜を 照すが 如し.

つき なくして ただ ほし のみ ある よるには ごうりきの ものか.
月 無くして 但 星 のみ 有る 夜には 強力の 者か.

たましき もの なんどは ぎょうほ すと いえども.
たましき 者 なんどは 行歩 すと いへども.

ろうこつの もの にょにん なんどは ぎょうほに かなわず.
老骨の 者 女人 なむどは 行歩に 叶わず.

まんげつの ときは にょにん ろうこつ なんども.
満月の 時は 女人 老骨 なむども.

あるいは ゆうえんの ため あるいは ひとに あわんが ごとき ぎょうほ じざい なり.
或は 遊宴の ため 或は 人に 値わんが 如き 行歩 自在 なり.

しょきょうには ぼさつ だいこんじょうの ぼんぷは たとい とくどう なるとも.
諸経には 菩薩 大根性の 凡夫は 設い 得道 なるとも.

2じょう ぼんぷ あくにん にょにん ないし まつだいの ろうこつの けたい.
二乗 凡夫 悪人 女人 乃至 末代の 老骨の 懈怠.

むかいの ひとびとは おうじょうじょうぶつ ふじょう なり.
無戒の 人人は 往生 成仏 不定 なり.

ほけきょうは しからず.
法華経は 爾らず.

2じょう あくにん にょにんとう なお ほとけに なる.
二乗 悪人 女人 等 猶 仏に 成る.

いかに いわんや ぼさつ だいこんじょうの ぼんぷをや.
何に 況や 菩薩 大根性の 凡夫をや.

また つきは よい よりも あかつきは ひかり まさり.
又 月は よい よりも 暁は 光 まさり.

はる なつよりも あき ふゆは ひかり あり.
春 夏 よりも 秋 冬は 光 あり.

ほけきょうは しょうぞう 2せんねんよりも まっぽうには ことに りしょう あるべきなり.
法華経は 正像 二千年 よりも 末法には 殊に 利生 有る可きなり.

とうて いわく しょうもん いかん.
問うて 云く 証文 如何.

こたえて いわく どうり けんねん なり.
答えて 云く 道理 顕然 なり.

そのうえ つぎしもの もんに いわく.
其の上 次ぎ下の 文に 云く.

わが めつどの のち ごの 500さいの なかに こうせんるふして.
「我が 滅度の 後 後の 五百歳の 中に 広宣流布して.

えんぶだいに おいて だんぜつ せしむる こと なし とう うんぬん.
閻浮提に 於て 断絶 せしむる こと 無し」等 云云.

この きょうもんに 2000ねんの のち なんえんぶだいに こうせんるふ すべしと とかれて そうろうは.
此の 経文に 二千年の 後 南閻浮提に 広宣流布 すべしと とかれて 候は.

だい3の つきの たとえの い なり.
第三の 月の 譬の 意 なり.

この いを こんぽん でんぎょうだいし しゃくして いわく.
此の 意を 根本 伝教大師 釈して 云く.

しょうぞう やや すぎ おわって まっぽう はなはだ ちかきに あり
「正像 稍 過ぎ 已て 末法 太だ 近きに 有り.

ほっけ いちじょうの き いま まさしく これ そのとき なり とう うんぬん.
法華 一乗の 機 今 正しく 是れ 其の 時 なり」等 云云.

しょうほう 1000ねんも ぞうほう せんねんも ほけきょうの りやく しょきょうに これ まさるべし.
正法 千年も 像法 千年も 法華経の 利益 諸経に 之れ 勝る可し.

しかりと いえども つきの ひかりの はる なつの しょうぞう 2000ねん.
然りと 雖も 月の 光の 春 夏の 正像 二千年.

まっぽうの あきふゆに いたって ひかりの まさるが ごとし.
末法の 秋 冬に 至つて 光の 勝るが 如し.

だい4の たとえは ひの たとえ なり.
第四の 譬は 日の 譬 なり.

ほしの なかに つきの いでたるは ほしの ひかりには つきの ひかりは まさるとも いまだ ほしの ひかりを けさず.
星の 中に 月の 出でたるは 星の 光には 月の 光は 勝るとも 未だ 星の 光を 消さず.

にっちゅうには ほしの ひかり きゆる のみに あらず.
日中には 星の 光 消ゆる のみに 非ず.

また つきの ひかりも うばいて ひかりを うしなう.
又 月の 光も 奪いて 光を 失う.

にぜんは ほしの ごとく ほけきょうの しゃくもんは つきの ごとし.
爾前は 星の 如く 法華経の 迹門は 月の 如し.

じゅりょうほんは ひの ごとし.
寿量品は 日の 如し.

じゅりょうほんの ときは しゃくもんの つき いまだ およばず.
寿量品の 時は 迹門の 月 未だ 及ばず.

いかに いわんや にぜんの ほしをや.
何に 況や 爾前の 星をや.

よるは ほしの とき つきの ときも しゅうむを なさず.
夜は 星の 時 月の 時も 衆務を 作さず.

よ あけて かならず しゅうむを なす.
夜 暁て 必ず 衆務を 作す.

にぜん しゃくもんにして なお しょうじを はなれ がたし.
爾前 迹門にして 猶 生死を 離れ 難し.

ほんもん じゅりょうぼんに いたって かならず しょうじを はなるべし.
本門 寿量品に 至つて 必ず 生死を 離る可し.

よの 6ひ これを りゃくす.
余の 六譬 之を 略す.

この ほかに また おおくの たとえ この ほんに あり.
此の 外に 又 多くの 譬此の 品に 有り.

その なかに わたりに ふねを えたるが ごとしと.
其の 中に 渡りに 船を 得たるが 如しと.

この たとえの こころは しょうじの たいかいには にぜんの きょうは.
此の 譬の 意は 生死の 大海には 爾前の 経は.

あるいは いかだ あるいは こぶね なり.
或は 筏 或は 小船 なり.

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b1502

しょうじの しがんより しょうじの ひがんには つくと いえども.
生死の 此岸 より 生死の 彼岸には 付くと 雖も.

しょうじの たいかいを わたり ごくらくの ひがんには とづきがたし
生死の 大海を 渡り 極楽の 彼岸には とづきがたし.

れいせば せけんの しょうせん とうが ちくしより ばんどうに いたり.
例せば 世間の 小船 等が 筑紫 より 坂東に 至り.

かまくら より えのしま なんどへと づけども とうどへ いたらず.
鎌倉 より いの嶋 なんどへと づけども 唐土へ 至らず.

とうせんは かならず にほんこくより しんたんこくに いたるに さわり なきなり.
唐船は 必ず 日本国 より 震旦国に 至るに 障り 無きなり.

また いわく 「まずしきに たからを えたるが ごとし」とう うんぬん.
又 云く 「貧きに 宝を 得たるが 如し」等 云云.

にぜんの くには ひんこく なり.
爾前の 国は 貧国 なり.

にぜんの ひとは がき なり.
爾前の 人は 餓鬼 なり.

ほけきょうは たからの やま なり.
法華経は 宝の 山 なり.

ひとは ふじん なり.
人は 富人 なり.

とうて いわく にぜんは ひんこくと いう きょうもん いかん.
問うて 云く 爾前は 貧国と いふ 経文 如何.

こたえて いわく じゅきほんに いわく.
答えて 云く 授記品に 云く.

うえたる くに より きたって たちまちに だいおうの ぜんに あえるが ごとく とう うんぬん.
「飢えたる 国 より 来つて 忽ちに 大王の 膳に 遇へるが 如く」等云云.

にょにんの おうじょう じょうぶつの だんは きょうもんに いわく.
女人の 往生 成仏の 段は 経文に 云く.

「もし にょらいの めつご ごの 500さいの なかに.
「若し 如来の 滅後 後の 五百歳の 中に.

もし にょにん あって この きょうてんを きいて せつの ごとく しゅぎょうせば.
若し 女人 有つて 是の 経典を 聞いて 説の 如く 修行せば.

ここに おいて みょうじゅうして すなわち あんらくせかい あみだぶつの だいぼさつしゅうに.
此に 於て 命終して 即ち 安楽世界 阿弥陀仏の 大菩薩衆に.

いにょう せられて じゅうする ところに ゆいて れんげの なか ほうざの うえに しょうじ」 とう うんぬん.
囲遶 せられて 住する 処に 往いて 蓮華の 中 宝座の 上に 生じ」等 云云.

とうて いわく この きょう この ほんに ことに にょにんの おうじょうを とく.
問うて 曰く 此の 経 此の 品に 殊に 女人の 往生を 説く.

なんの ゆえか あるや.
何の 故か 有るや.

こたえて いわく ぶつい はかり がたし.
答えて 曰く 仏意 測り 難し.

この ぎ けっし がたきか.
此の 義 決し 難きか.

ただし ひとつの りょうけんを くわえば にょにんは しゅうざいの こんぽん はこくの みなもと なり.
但し 一の 料簡を 加えば 女人は 衆罪の 根本 破国の 源 なり.

ゆえに ないてん げてんに おおく これを いましむ.
故に 内典 外典に 多く 之を 禁しむ.

その なかに げてんを もって これを ろんぜば 3じゅう あり.
其の 中に 外典を 以て 之を 論ずれば 三従 あり.

3じゅうと もうすは みっつ したがうと いうなり.
三従と 申すは 三 したがうと 云ふなり.

1には おさなきにしては ふぼに したがう かして おっとに したがう おいて こに したがう.
一には 幼にしては 父母に 従う 嫁して 夫に 従う 老いて 子に 従う.

この 3しょう ありて せけん じざい ならず.
此の 三障 有りて 世間 自在 ならず.

ないてんを もって これを ろんずれば 5しょう あり.
内典を 以て 之を 論ずれば 五障 有り.

5しょうとは ひとつには 6どうりんねの あいだ だんしの ごとく だいぼんてんのうと ならず.
五障とは 一には 六道輪回の 間 男子の 如く 大梵天王と 作らず.

2には たいしゃくと ならず.
二には 帝釈と 作らず.

3には まおうと ならず.
三には 魔王と 作らず.

4には てんりんじょうおうと ならず.
四には 転輪聖王と 作らず.

5には つねに 6どうに とどまりて 3がいを いでて ほとけに ならず.
五には 常に 六道に 留まりて 三界を 出でて 仏に 成らず.

ちょうにちがつ3まいきょうの もん なり.
超日月三昧経の 文 なり.

ぎんしきにょきょうに いわく 「3ぜの しょぶつの まなこは だいちに だらくすとも.
銀色女経に 云く 「三世の 諸仏の 眼は 大地に 堕落 すとも.

ほうかいの もろもろの にょにんは ながく じょうぶつの ご なし」 とう うんぬん.
法界の 諸の 女人は 永く 成仏 の期 無し」等 云云.

ただし ぼんぷすら けんのう しょうにんは もうご せず はんよきと いいし ものは.
但し 凡夫すら 賢王 聖人は 妄語 せず はんよきと いゐし 者は.

けいかに くびを あたえ きさつと もうせし ひとは じょくんが つかに つるぎを かけたりき.
けいかに 頸を あたえ きさつと 申せし 人は 徐君が 塚に 剣を かけたりき.

これ やくそくを たがえず. 
これ 約束を 違えず.

もうご なき ゆえ なり.
妄語 無き 故なり.

いかに いわんや しょうもん ぼさつ ほとけをや.
何に 況や 声聞 菩薩 仏をや.

ほとけは むかし ぼんぷにて ましましし とき.
仏は 昔 凡夫にて ましましし 時.

しょうじょうきょうを ならい たまいし とき.
小乗経を 習い 給いし 時.

5かいを うけ はじめ たまいき.
五戒を 受け 始め 給いき.

5かいの なかの だい4の ふもうごの かいを かたく たもち たまいき.
五戒の 中の 第四の 不妄語の 戒を 固く 持ち 給いき.

たからを うばわれ いのちを ほろぼされし ときも この かいを やぶらず.
財を 奪われ 命を ほろぼされし 時も 此の 戒を やぶらず.

→a1502

b1503

だいじょうきょうを ならい たまいし とき また 10じゅうきんかいを たもち.
大乗経を 習い 給いし 時 又 十重禁戒を 持ち.

その 10じゅうきんかいの なかの だい4の ふもうごかいを たもち たまいき.
其の 十重禁戒の 中の 第四の 不妄語戒を 持ち 給いき.

この かいを かたく たもちて むりょうこう これを やぶり たまわず.
此の 戒を 堅く 持ちて 無量劫 之を 破り たまわず.

ついに この かいりきに よって ぶっしんを じょうじ.
終に 此の 戒力に 依て 仏身を 成じ.

32そうの なかに こうちょうぜっそうを え たまえり.
三十二相の 中に 広長舌相を 得 たまえり.

この したの うすく ひろく ながくして.
此の 舌 うすく ひろく ながくして.

あるいは おもてに おおい あるいは かみぎわに いたり.
或は 面に ををい 或は 髪際に いたり.

あるいは ぼんてんに いたる したの うえに 5の え あり.
或は 梵天に いたる 舌の 上に 五の 画 あり.

いんもんの ごとし.
印文の ごとし.

その したの いろは せきどうの ごとし.
其の 舌の 色は 赤銅の ごとし.

したの したに ふたつの たま あり.
舌の 下に 二の 珠 あり.

かんろを ゆじゅつ す.
甘露を 涌出 す.

これ ふもうごかいの とくの いたす ところなり.
此れ 不妄語戒の 徳の 至す 所なり.

ほとけ この したを もって 3ぜの しょぶつの おんまなこは だいちに おつとも.
仏 此の 舌を 以て 三世の 諸仏の 御眼は 大地に 落つとも.

ほうかいの にょにんは ほとけに なるべからずと とかれ しかば.
法界の 女人は 仏に なる べからずと 説かれ しかば.

いっさいの にょにんは いかなる よにも ほとけには ならせ たもう まじきと こそ おぼえて そうらえ.
一切の 女人は 何なる 世にも 仏には 成らせ 給うまじき とこそ 覚えて 候へ.

さるにては にょにんの おんみも うけさせ たまいては.
さるにては 女人の 御身も 受けさせ 給いては.

たとい きさき 3こうの くらいに そなわりても なにかは すべき.
設ひ 后 三公の 位に そなはりても 何かは すべき.

ぜんこん ぶつじを なしても よしなしと こそ おぼえ そうらえ.
善根 仏事を なしても よしなしと こそ 覚え 候へ.

しかるを この ほけきょうの やくおうほんに にょにんの おうじょうを ゆるされ そうらいぬること また ふしぎに そうろう.
而るを 此の 法華経の 薬王品に 女人の 往生を ゆるされ 候ぬる 事又 不思議に 候.

かの きょうの もうごか この きょうの もうごか.
彼の 経の 妄語か 此の 経の 妄語か.

いかにも いっぽうは もうご たるべきか.
いかにも 一方は 妄語 たるべきか.

もし また いっぽう もうごならば いちぶつに 2ごん あり.
若し 又 一方 妄語 ならば 一仏に 二言 あり.

しんじ がたし.
信じ 難し.

ただし むりょうぎきょうの 40よねんには いまだ しんじつを あらわさず.
但し 無量義経の 四十余年には 未だ 真実を 顕さず.

ねはんぎょうの にょらいには もうごの ことば なしと いえども.
涅槃経の 如来には 虚妄の 言無し と 雖も.

もし しゅじょう こもうの せつに よると しろしめすの もんを もって これを おもえば.
若し 衆生 虚妄の 説に 因ると 知しめすの 文を 以て 之を 思えば.

ほとけは にょにんは おうじょうじょうぶつ すべからずと とかせ たまいけるは もうごと きこえたり.
仏は 女人は 往生 成仏 すべからずと 説かせ 給いけるは 妄語と 聞えたり.

みょうほけきょうの もんに せそんの ほうは ひさしくして のちに かならず まさに しんじつを とくべし.
妙法華経の 文に 世尊の 法は 久くして 後に 要ず 当に 真実を 説くべし.

みょうほけきょう ないし かいぜしんじつと もうす もんを もって これを おもうに.
妙法華経 乃至 皆是真実と 申す 文を 以て 之を 思うに.

にょにんの おうじょうじょうぶつ けつじょうと とかるる ほけきょうの もんは じつご.
女人の 往生 成仏 決定と 説かるる 法華経の 文は 実語.

ふもうごかいと みえたり.
不妄語戒と 見えたり.

せけんの けんじんも ただ ひとり ある こが ふしぎなる とき.
世間の 賢人も 但 一人 ある 子が 不思議 なる 時.

あるいは とが ある ときは ながく こ たる べからざるの ことわり.
或は 失ある 時は 永く 子 為る べからざるの 理.

きしょうを かき あるいは せいごんを たてると いえども みょうじゅうの ときに のぞめば これを ゆるす.
起請を 書き 或は 誓言を 立ると 雖も 命終の 時に 臨めば 之を 許す.

しかりと いえども けんじんに あらずと いわず.
然りと 雖も 賢人に 非ずと 云わず.

また もうごせる ものとも いわず.
又 妄語せる 者とも 云わず.

ほとけも またまた かくのごとし.
仏も 亦復 是くの如し.

にぜん 40よねんが あいだは ぼさつの とくどう ぼんぷの とくどう.
爾前 四十余年が 間は 菩薩の 得道 凡夫の 得道.

ぜんにん なんし とうの とくどうをば ゆるす ようなれども.
善人 男子 等の 得道をば 許す やうなれども.

2じょう あくにん にょにん なんどの とくどう これをば ゆるさず.
二乗 悪人 女人 なんどの 得道 此れをば 許さず.

あるいは また ゆるすに にたる ことも あり いまだ さだめ がたかりしを.
或は 又 許すに にたる 事も あり いまだ 定め がたかりしを.

ほとけの せっきょう 42ねん すでに すぎて おんとし 72.
仏の 説教 四十二年 すでに 過ぎて 御年 七十二.

まかだこく おうしゃじょう ぎしゃくっせんと もうす やまにして.
摩竭提国 王舎城 耆闍崛山と 申す 山にして.

ほけきょうを とかせ たもうと おぼせし とき.
法華経を 説かせ 給うと おぼせし 時.

まず むりょうぎきょうと もうす きょうを とかせ たもう.
先づ 無量義経と 申す 経を 説かせ 給ふ.

むりょうぎきょうの もんに いわく.
無量義経の 文に 云く.

40よねん うんぬん.
四十余年 云云.

げつ にち.
月 日.

にちれん かおう.
日蓮 花押.

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