b1580から1582.
上野尼御前御返事(うえのあまごぜん ごへんじ)
別名、烏竜遺竜事 (おりょう いりょうの こと).
日蓮大 聖人 60歳御作.

 

b1580

うえのあまごぜん ごへんじ.
上野尼御前 御返事.

しらよね 1だ よんとじょう あらいいも ひとたわら おくりたびて.
しらよね 一駄 四斗定 あらひいも 一俵・ 送り給びて.

なんみょうほうれんげきょうと となえまいらせ そうらい おわんぬ.
南無妙法蓮華経と 唱へ まいらせ 候い 了んぬ。.

みょうほうれんげきょうと もうすは はちすに たとえられて そうろう.
妙法蓮華経と 申すは 蓮に 譬えられて 候、.

てんじょうには まかまんだらけ にんげんには さくらの はな.
天上には 摩訶曼陀羅華・ 人間には 桜の 花・.

これらは めでたき はな なれども これらの はなをば ほけきょうの たとえには ほとけ とりたまう こと なし.
此等は めでたき 花なれども・ 此れ等の 花をば 法華経の 譬には 仏 取り給う 事 なし、.

いっさいの はなの なかに とりわけて この はなを ほけきょうに たとえさせ たまう ことは その ゆえ そうろう なり.
一切の 花の 中に 取分けて 此の 花を 法華経に 譬へさせ 給う 事は 其の 故 候 なり、.

あるいは ぜんけごかと もうして はなは さきに このみは あと なり.
或は 前花後菓と 申して 花は 前に 菓は 後 なり・.

あるいは ぜんかごけと もうして このみは さきに はなは あと なり.
或は 前菓後花と 申して 菓は 前に 花は 後 なり、.

あるいは いっけたか あるいは たけいっか あるいは むけうかと しなじなに そうらえども.
或は 一花多菓・ 或は 多花一菓・ 或は 無花有菓と 品品に 候へども.

れんげと もうす はなは このみと はなと どうじ なり.
蓮華と 申す 花は 菓と 花と 同時 なり、.

いっさいきょうの くどくは さきに ぜんこんを なして あとに ほとけと なると とく.
一切経の 功徳は 先に 善根を 作して 後に 仏とは 成ると 説く.

かかる ゆえに ふじょう なり.
かかる 故に 不定 なり、.

ほけきょうと もうすは てに とれば そのて やがて ほとけに なり.
法華経と 申すは 手に 取れば 其の手 やがて 仏に 成り・.

くちに となうれば その くち すなわち ほとけ なり.
口に 唱ふれば 其の 口 即 仏 なり、.

たとえば てんげつの ひがしの やまの はに いずれば その とき すなわち みずに かげの うかぶが ごとく.
譬えば 天月の 東の 山の 端に 出ずれば 其の 時 即 水に 影の 浮かぶが 如く・.

おとと ひびきとの どうじ なるが ごとし.
音と ひびきとの 同時 なるが 如し、.

ゆえに きょうに いわく.
故に 経に 云く.

「もし ほうを きくこと あらんものは ひとりとして じょうぶつ せざること なし」うんぬん.
「若し 法を 聞くこと 有らん 者は 一として 成仏 せざること 無し」云云、.

もんの こころは このきょうを たもつ ひとは 100にんは 100にんながら.
文の 心は 此の 経を 持つ 人は 百人は 百人ながら・.

1000にんは 1000にんながら 1にんも かけず ほとけに なると もうす もん なり.
千人は 千人ながら・ 一人も かけず 仏に 成ると 申す 文 なり。.

そもそも ごしょうそくを み そうらえば あまごぜんの じぶ こ まつのろくろうざえもんにゅうどうどのの きじつと うんぬん.
抑 御消息を 見 候へば 尼御前の 慈父・ 故 松野六郎左衛門入道殿の 忌日と 云云、.

しそく おおければ こうよう まちまち なり.
子息 多ければ 孝養 まちまち なり、.

しかれども かならず ほけきょうに あらざれば ほうぼう とう うんぬん.
然れども 必ず 法華経に 非ざれば 謗法 等 云云、.

しゃかぶつの こんくの せつに いわく.
釈迦仏の 金口の 説に 云く.

「せそんの ほうは ひさしくして のち かならず まさに しんじつを とき たもうべし」と.
「世尊の 法は 久しくして 後 要らず 当に 真実を 説き たもうべし」と、.

たほうの しょうめいに いわく.
多宝の 証明に 云く、.

みょうほうれんげきょうは みな これ しんじつ なりと.
妙法蓮華経は 皆 是れ 真実 なりと・.

じっぽうの しょぶつの ちかいに いわく ぜっそう ぼんてんに いたる うんぬん.
十方の 諸仏の 誓に 云く 舌相 梵天に 至る 云云、.

これより ひつじさるの かたに たいかいを わたりて くにあり かんどと なずく.
これより ひつじさるの 方に 大海を わたりて 国あり・ 漢土と 名く、.

かの くにには あるいは ほとけを しんじて かみを もちいぬ ひとも あり.
彼の 国には 或は 仏を 信じて 神を 用いぬ 人も あり・.

あるいは かみを しんじて ほとけを もちいぬ ひとも あり.
或は 神を 信じて 仏を 用いぬ 人も あり・.

あるいは にほんこくも はじめは さこそ そうらいしか.
或は 日本国も 始は・さこそ 候いしか、.

しかるに かの くにに おりょうと もうす てがき ありき.
然るに 彼の 国に 烏竜と 申す 手書 ありき・.

かんど だい1の て なり.
漢土 第一の 手 なり、.

れいせば にほんこくの どうふう こうぜいらの ごとし.
例せば 日本国の 道風・ 行成等の 如し、.

このひと ぶっぽうを いみて きょうを かかじと もうす がんを たてたり.
此の人 仏法を いみて 経を かかじと 申す 願を 立てたり、.

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b1581

この ひと しご きたりて じゅうびょうを うけ りんじゅうに およんで こに ゆいごんして いわく.
此の 人 死期 来りて 重病を うけ 臨終に をよんで 子に 遺言して 云く・.

なんじは わが こ なり その あと たえずして また われよりも すぐれたる しゅせき なり.
汝は 我が 子 なり・ その 跡 絶ずして 又 我 よりも勝 れたる 手跡 なり、.

たとい いかなる あくえん ありとも ほけきょうを かく べからずと うんぬん.
たとひ・ いかなる 悪縁 ありとも 法華経を かく べからずと 云云、.

しかして のち 5こんより ちの いずる こと いずみの わくが ごとし.
然して 後・ 五根より 血の 出ずる 事・ 泉の 涌くが 如し・.

した 8つに さけ み くだけて じっぽうに わかれぬ.
舌 八つに さけ・ 身 くだけて 十方に わかれぬ、.

しかれども 1るいの ひとびとも さんあくどうを しらざれば じごくに おつる せんそうとも しらず.
然れども 一類の 人人も 三悪道を 知らざれば 地獄に 堕つる 先相とも しらず。.

その こ をば いりょうと もうす.
其の 子 をば 遺竜と 申す.

また かんど だい1の しゅせき なり.
又 漢土 第一の 手跡 なり、.

おやの あとを おうて ほけきょうを かかじと いう がんを たてたり.
親の 跡を 追うて 法華経を 書かじと 云う 願を 立てたり、.

その とき だいおう おわします しばしと なずく.
其の 時 大王 おはします 司馬氏と 名く.

ぶっぽうを しんじ ことに ほけきょうを あおぎ たまいしが.
仏法を 信じ 殊に 法華経を あふぎ 給いしが・.

おなじくは わが くにの なかに しゅせき だい1の ものに この きょうを かかせて じきょうと せんとて いりょうを めす.
同じくは 我が 国の 中に 手跡 第一の 者に 此の 経を 書かせて 持経と せんとて 遺竜を 召す、.

りょう もうさく ちちの ゆいごん あり こればかりは ゆるし たまえと うんぬん.
竜 申さく 父の 遺言 あり 是れ 計りは 免し 給へと 云云、.

だいおう ちちの ゆいごんと もうす ゆえに たの しゅせきを めして いっきょうを うつし おわんぬ.
大王 父の 遺言と 申す 故に 他の 手跡を 召して 一経を うつし 畢んぬ、.

しかりと いえども おんこころに かない たまわざり しかば.
然りと いへ共 御心に 叶い 給はざり しかば・.

また いりょうを めして いわく.
又 遺竜を 召して 言はく.

なんじ おやの ゆいごんと もうせば ちん まげて きょうを うつさせず.
汝 親の 遺言と 申せば 朕 まげて 経を 写させず・.

ただ 8かんの だいもく ばかりを ちょくに したがうべしと うんぬん.
但 八巻の 題目 計りを 勅に 随うべしと 云云、.

かえすがえす じし もうすに おう いかりて いわく.
返す返す 辞し 申すに 王 瞋りて 云く.

なんじが ちちと いうも わが しん なり.
汝が 父と 云うも 我が 臣 なり.

おやの ふこうを おそれて だいもくを かかずば いちょくの とが ありと ちょくじょう たびたび おもかり しかば.
親の 不孝を 恐れて 題目を 書かずば 違勅の 科 ありと 勅定 度度 重かり しかば・.

ふこうは さる こと なれども とうざの せめを のがれがたかり しかば.
不孝は さる 事 なれども 当座の 責を・ のがれがたかり しかば.

ほけきょうの げだいを かきて おうへ ささげ たくに かえりて ちの はかに むかいて ちの なみだを ながして もうす ようは.
法華経の 外題を 書きて 王へ 上げ 宅に 帰りて 父の はかに 向いて 血の 涙を 流して 申す 様は・.

てんしの せめ おもきに よって なき ちちの ゆいごんを たがえて すでに ほけきょうの げだいを かきぬ.
天子の 責 重きに よつて 亡き父の 遺言を たがへて・ 既に 法華経の 外題を 書きぬ。.

ふこうの せめ まぬがれ がたしと なげきて 3かの あいだ はかを はなれず.
不孝の 責 免れ がたしと 歎きて 三日の 間・ 墓を 離れず.

じきを たち すでに いのちに およぶ.
食を 断ち 既に 命に 及ぶ、.

3かと もうす とらの ときに すでに ぜっし おわって ゆめの ごとし.
三日と 申す 寅の 時に 已に 絶死し 畢つて 夢の 如し、.

こくうを みれば てんにん 1にん おわします.
虚空を 見れば 天人 一人 おはします・.

たいしゃくを えに かきたるが ごとし.
帝釈を 絵に かきたるが 如し・.

むりょうの けんぞく てんちに じゅうまん せり.
無量の 眷属・ 天地に 充満 せり、.

ここに りょう とうて いわく いかなる ひとぞ.
爰に 竜 問うて 云く 何なる 人ぞ・.

こたえて いわく なんじ しらずや われは これ ちちの おりょう なり.
答えて 云く 汝 知らずや 我は 是れ 父の 烏竜 なり、.

われ にんげんに ありし とき げてんを しゅうし ぶっぽうを かたきと し.
我 人間に ありし 時・ 外典を 執し 仏法を かたきと し、.

ことに ほけきょうに かたきを なし まいらせし ゆえに むけんに おつ.
殊に 法華経に 敵を なし まいらせし 故に 無間に 堕つ、.

ひびに したを ぬかるる こと すうひゃくど.
日日に 舌を ぬかるる 事・ 数百度・.

あるいは しし あるいは いき てんに あおぎ ちに ふして なげけども かなう こと なし.
或は 死し 或は 生き・ 天に 仰き 地に 伏して・ なげけども 叶う 事 なし、.

にんげんへ つげんと おもえども たより なし.
人間へ 告げんと 思へども 便り なし、.

なんじ わが ことして ゆいごん なりと もうせ しかば.
汝 我が 子として 遺言 なりと 申せ しかば・.

その ことば ほのおと なって みを せめ つるぎと なって てんより ふり くだる.
其の 言 炎と 成つて 身を 責め・ 剣と 成つて 天より 雨り 下る、.

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なんじが ふこう きわまり なかり しかども.
汝が 不孝 極り 無かり しかども.

わが ゆいごんを たがえざりし ゆえに じごうじとくか.
我が 遺言を 違へざりし 故に 自業自得果・.

うらみ がたかりし ところに こんじきの ほとけ いったい むけんじごくに しゅつげんして.
うらみ がたかりし 所に・ 金色の 仏 一体・ 無間地獄に 出現して.

けしへんほうかい だんぜんしょしゅじょう いちもんほけきょう けつじょうじょうぼだいと うんぬん.
仮使遍法界・ 断善諸衆生・ 一聞法華経・ 決定成菩提と 云云、.

この ほとけ むけんじごくに いり たまい しかば たいすいを だいかに なげたるが ごとし.
此の 仏・ 無間地獄に 入り 給い しかば・ 大水を 大火に・ なげたるが 如し、.

すこし くるしみ やみぬる ところに われ がっしょうして ほとけに とい たてまつりて.
少し 苦み やみぬる 処に 我 合掌して 仏に 問い 奉りて.

いかなる ほとけぞと もうせば ほとけ こたえて.
何なる 仏ぞ と申せば・ 仏 答えて.

われは これ なんじが しそく いりょうが ただいま かくところの.
我は 是れ 汝が 子息 遺竜が 只今 書くところの.

ほけきょうの だいもく 64もんじの うちの みょうの いちじ なりと いう.
法華経の 題目・六十四字の 内の 妙の 一字 なりと 言ふ、.

8かんの だいもくは はっぱ 64の ほとけ 64の まんげつと なり たまえば.
八巻の 題目は 八八 六十四の 仏・ 六十四の 満月と 成り 給へば・.

むけんじごくの だいあん すなわち だいみょうと なりし うえ.
無間地獄の 大闇 即 大明と なりし 上・.

むけんじごくは とういそくみょう ふかいほんいと もうしてじょうじゃっこうの みやこと なりぬ.
無間地獄は 当位即妙・ 不改本位と 申して 常寂光の 都と 成りぬ、.

われ および ざいにんとは みな はちすの うえの ほとけと なりて.
我 及び 罪人とは 皆 蓮の 上の 仏と 成りて.

ただいま とそつの ないいんへ のぼり まいり そうろうが まず なんじに つぐるなりと うんぬん.
只今 都率の 内院へ 上り 参り 候が・先ず 汝に 告ぐるなりと 云云、.

いりょうが いわく.
遺竜が 云く、.

わが てにて かきけり いかでか きみ たすかり たまうべき.
我が 手にて 書きけり 争でか 君 たすかり 給うべき、.

しかも わが こころより かくに あらず.
而も 我が 心より・ かくに 非ず・.

いかに いかにと もうせば ちち こたえて いわく.
いかに・ いかにと 申せば、父 答えて 云く.

なんじ はかなし なんじが ては わがて なり なんじが みは わが み なり.
汝 はかなし 汝が 手は 我が 手 なり・ 汝が 身は 我が 身 なり・.

なんじが かきし じは わが かきし じ なり.
汝が 書きし 字は 我が 書きし 字 なり、.

なんじ こころに しんぜざれども てに かく ゆえに すでに たすかりぬ.
汝 心に 信ぜざれども 手に 書く 故に 既に・ たすかりぬ、.

たとえば しょうにの ひを はなつに こころに あらざれども ものを やくが ごとし.
譬えば 小児の 火を 放つに 心に あらざれども 物を 焼くが 如し、.

ほけきょうも また かくの ごとし ぞんがいに しんを なせば かならず ほとけに なる.
法華経も 亦 かくの 如し 存外に 信を 成せば 必ず 仏に なる、.

また その ぎを しりて ぼうずること なかれ.
又 其の 義を 知りて 謗ずる事 無かれ、.

ただし ざいけの ことなれば いいし こと ことさら だいざい なれども ざんげ しやすしと うんぬん.
但し 在家の 事なれば・ いひしこと 故 大罪 なれども 懺悔 しやすしと 云云、.

この ことを だいおうに もうす.
此の 事を 大王に 申す、.

だいおうの いわく.
大王の 言く.

わが がん すでに しるし ありとて いりょう いよいよ ちょうおんを こうむり.
我が 願 既に しるし 有りとて 遺竜 弥 朝恩を 蒙り.

くに また こぞって この おんきょうを あおぎ たてまつる.
国 又 こぞつて 此の 御経を 仰ぎ 奉る。.

しかるに こ ごろうどのと にゅうどうどのとは あまごぜんの ちち なり こ なり.
然るに 故 五郎殿と 入道殿とは 尼御前の 父 なり 子 なり、.

あまごぜんは かの にゅうどうどのの むすめ なり.
尼御前は 彼の 入道殿の むすめ なり、.

いまこそ にゅうどうどのは とそつの ないいんへ まいり たまうらめ.
今こそ 入道殿は 都率の 内院へ 参り 給うらめ、.

この よしを ほうきどの よみきかせ まいらせ たまうべし.
此の 由を はわきどの よみきかせ まいらせ 給うべし、.

こと そうそうにて くわしく もうさず そうろう.
事 そうそうにて くはしく 申さず 候。.

きょうきょう きんげん.
恐恐 謹言.

11がつ 15にち にちれん かおう.
十一月 十五日 日蓮 花押.

うえのあまごぜん ごへんじ.
上野尼御前 御返事.

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