b1381から1386.
松野殿御返事 (まつのどの ごへんじ)
別名、十四誹謗抄 (じゅうし ひぼうしょう).
日蓮大 聖人 55歳御作.

 

b1381

まつのどの ごへんじ.
松野殿 御返事.

がもく 1ゆい はくまい 1だ しろこそで ひとつ おくり たび おわんぬ.
鵞目 一結・ 白米 一駄・ 白小袖 一 送り 給 畢ぬ、.

そもそも このやまと もうすは みなみは のやま まんまんとして 100よりに およべり.
抑も 此の 山と 申すは 南は 野山 漫漫として 百余里に 及べり、.

きたは みのぶさん たかく そばたちて しらねがたけに つづき.
北は 身延山 高く 峙ちて 白根が嶽に つづき.

にしには 7めんと もうす やま ががとして はくせつ たえず.
西には 七面と 申す 山 峨峨として 白雪 絶えず、.

ひとの すみか 1うも なし.
人の 住家 一宇も なし、.

たまたま といくる ものとては こずえを つたう ましらなれば.
適ま 問いくる 物とては 梢を 伝ふ ましらなれば.

すこしも とどまる こと なく かえる さいそぐ うらみなる かな.
少も 留まる 事 なく 還る さ急ぐ 恨みなる 哉、.

ひがしは ふじがわ みなぎりて りゅうさの なみに ことならず.
東は 富士河 漲りて 流沙の 浪に 異ならず、.

かかる ところ なれば とぶらう ひとも まれ なるに.
かかる 所 なれば 訪う 人も 希 なるに.

かように たびたび おとずれ せさせ たまう こと ふしぎの なかの ふしぎ なり.
加様に 度度 音信 せさせ 給ふ 事 不思議の 中の 不思議 なり。.

じっそうじの がくと にちげんは にちれんに きぶくして しょりょうを すて.
実相寺の 学徒 日源は 日蓮に 帰伏して 所領を 捨て.

でし だんなに はなされ おわして わがみだにも おきどころ なき よし うけたまわり そうろうに.
弟子 檀那に 放され 御座て 我身だにも 置き処 なき 由 承り 候に.

にちれんを とぶらい しゅそうを あわれみさせ たまう こと まことの どうしん なり しょうにん なり.
日蓮を 訪い 衆僧を 哀みさせ 給う 事 誠の 道心 なり 聖人なり、.

すでに かの ひとは むそうの がくしょう ぞかし.
已に 彼の 人は 無雙の 学生 ぞかし・.

しかるに みょうもんみょうりを すてて それがしが でしと なりて.
然るに 名聞名利を 捨てて 某が 弟子と 成りて.

わが みには がふあいしんみょうの しゅぎょうを いたし.
我が 身には 我不愛身命の 修行を 致し・.

ほとけの ごおんを ほうぜんと めんめんまでも きょうけ もうし.
仏の 御恩を 報ぜんと 面面までも 教化 申し.

かくの ごとく くよう とうまで ささげしめ たまうこと ふしぎなり.
此くの 如く 供養 等まで 捧げしめ 給う事 不思議なり、.

まっせには くけんの そうには ごうしゃの ごとしと ほとけは とかせ たまいて そうろうなり.
末世には 狗犬の 僧尼は 恒沙の 如しと 仏は 説かせ 給いて 候なり、.

もんの こころは まっせの そう びくには みょうもんみょうりに じゃくし うえには.
文の 意は 末世の 僧・ 比丘尼は 名聞名利に 著し 上には.

けさころもを きたれば かたちは そう.
袈裟衣を 著たれば 形は 僧・.

びくにに にたれども ないしんには じゃけんの つるぎを さげて.
比丘尼に 似たれども 内心には 邪見の 剣を 提げて.

わが でいりする だんなの ところへ よの そうにを よせじと むりょうの ざんげんを いたす.
我が 出入する 檀那の 所へ 余の 僧尼を よせじと 無量の 讒言を 致す、.

よの そうにを よせずして だんなを おしまん こと.
余の 僧尼を 寄せずして 檀那を 惜まん 事.

たとえば いぬが さきに ひとの いえに いたって ものを えて くらうが.
譬えば 犬が 前に 人の 家に 至て 物を 得て 食ふが、.

のちに いぬの きたるを みて いがみほえ くいあうが ごとく なるべしと いう こころ なり.
後に 犬の 来るを 見て いがみほへ 食合が 如く なるべしと 云う 心 なり、.

かくの ごときの そうには みなみな あくどうに だす べきなり.
是くの 如きの 僧尼は 皆皆 悪道に 堕す べきなり、.

この がくと にちげんは がくしょう なれば この もんをや みさせ たまいけん.
此 学徒 日源は 学生 なれば 此の 文をや 見させ 給いけん、.

ことの ほかに しゅそうを とぶらい かえりみ たまうこと まことに ありがたく おぼえ そうろう.
殊の 外に 僧衆を 訪ひ 顧み 給う事 誠に 有り難く 覚え 候。.

おんふみに いわく.
御文に 云く.

この きょうを たもち もうして のち たいてん なく.
此の 経を 持ち 申して 後 退転 なく.

10にょぜ じがげを よみ たてまつり だいもくを となえ もうし そうろうなり.
十如是・ 自我偈を 読み奉り 題目を 唱へ 申し 候なり、.

ただし しょうにんの となえさせ たまう だいもくの くどくと われらが となえ もうす だいもくの くどくと.
但し 聖人の 唱えさせ 給う 題目の 功徳と 我れ等が 唱へ 申す 題目の 功徳と.

いかほどの たしょう そうろうべきやと うんぬん.
何程の 多少 候べきやと 云云、.

さらに しょうれつ あるべからず そうろう.
更に 勝劣 あるべからず 候、.

→a1381

b1382

その ゆえは ぐしゃの たもちたる こがねも ちしゃの たもちたる こがねも.
其の 故は 愚者の 持ちたる 金も 智者の 持ちたる 金も・.

ぐしゃの ともせる ひも ちしゃの ともせる ひも.
愚者の 然せる 火も 智者の 然せる 火も.

その さべつ なきなり.
其の 差別 なきなり、.

ただし この きょうの こころに そむいて となえば その さべつ あるべき なり.
但し 此の 経の 心に 背いて 唱へば 其の 差別 有るべき なり、.

この きょうの しゅぎょうに じゅうじゅうの しな あり.
此の 経の 修行に 重重の しな あり.

その おおむねを もうせば きの 5に いわく.
其 大概を 申せば 記の 五に 云く.

「あくの かずを あかす ことをば いまの もんには せつ ふせつと いう のみ」.
「悪の 数を 明かす ことをば 今の 文には 説・ 不説と 云ふ のみ」、.

ある ひと これを わかって いわく.
有る 人 此れを 分つて 云く.

「さきに あくいんを つらね つぎに あっかを つらぬ あくの いんに 14あり.
「先きに 悪因を 列ね 次ぎに 悪果を 列ぬ 悪の 因に 十四あり.

1に きょうまん 2に けたい 3に けいが 4に せんしき 5に じゃくよく.
一に きょう慢・ 二に 懈怠・ 三に 計我・ 四に 浅識・ 五に 著欲・.

6に ふげ 7に ふしん 8に ひんしゅく 9に ぎわく 10に ひぼう.
六に 不解・ 七に 不信・ 八に 顰蹙・ 九に 疑惑・ 十に 誹謗・.

11に きょうぜん 12に ぞうぜん 13に しつぜん 14に こんぜん なり」.
十一に 軽善・ 十二に 憎善・ 十三に 嫉善・ 十四に 恨善 なり」.

この 14ひぼうは ざいけ しゅっけに わたるべし.
此の 十四誹謗は 在家 出家に 亘るべし.

おそるべし おそるべし.
恐る可し 恐る可し、.

かこの ふきょうぼさつは いっさいしゅじょうに ぶっしょう あり.
過去の 不軽菩薩は 一切衆生に 仏性 あり.

ほけきょうを たもたば かならず じょうぶつ すべし.
法華経を 持たば 必ず 成仏 すべし、.

かれを かろんじては ほとけを かろんずるに なるべし とて.
彼れを 軽んじては 仏を 軽んずるに なるべし とて.

らいはいの ぎょうをば たてさせ たまいしなり.
礼拝の 行をば 立てさせ 給いしなり、.

ほけきょうを たもたざる ものを さえ もし たもちやせん ずらん.
法華経を 持たざる 者を さへ 若し 持ちやせん ずらん.

ぶっしょう ありとて かくの ごとく らいはい したまう.
仏性 ありとて かくの 如く 礼拝し 給う.

いかに いわんや たもてる ざいけ しゅっけの ものをや.
何に 況や 持てる 在家 出家の 者をや、.

この きょうの 4の まきには.
此の 経の 四の 巻には.

「もしは ざいけにても あれ しゅっけにても あれ.
「若しは 在家 にても あれ 出家 にても あれ、.

ほけきょうを たもち とく ものを ひとことにても そしる ことあらば その つみ おおき こと.
法華経を 持ち 説く 者を 一言にても 毀る 事 あらば 其の 罪 多き 事、.

しゃかぶつを いっこうの あいだ ただちに そしり たてまつる つみには すぐれたり」と みえたり.
釈迦仏を 一劫の 間 直ちに 毀り 奉る 罪には 勝れたり」と 見へたり、.

あるいは「にゃくじつ にゃくふじつ」とも とかれたり.
或は「若実 若不実」とも 説かれたり、.

これを もって これを おもうに わすれても ほけきょうを たもつものをば たがいに そしる べからざるか.
之れを 以つて 之れを 思ふに 忘れても 法華経を 持つ 者をば 互に 毀る べからざるか、.

その ゆえは ほけきょうを たもつ ものは かならず みな ほとけ なり.
其 故は 法華経を 持つ 者は 必ず 皆 仏 なり.

ほとけを そしりては つみを えるなり.
仏を 毀りては 罪を 得るなり。.

かように こころえて となうる だいもくの くどくは しゃくそんの おんくどくと ひとしかるべし.
加様に 心 得て 唱うる 題目の 功徳は 釈尊の 御功徳と 等しかるべし、.

しゃくに いわく.
釈に 云く.

あびの えしょうは まったく ごくしょうの じしんに しょし びるの しんどは ぼんげの いちねんを こえず うんぬん.
阿鼻の 依正は 全く 極聖の 自身に 処し 毘盧の 身土は 凡下の 一念を 逾えず 云云、.

14ひぼうの こころは もんに まかせて すいりょう あるべし.
十四誹謗の 心は 文に 任せて 推量 あるべし、.

かように ほうもんを おんたずね そうろうこと まことに ごせを ねがわせ たまう ひとか.
加様に 法門を 御尋ね 候事 誠に 後世を 願はせ 給う 人か.

よく この ほうを きくものは そのひと またまた かたしとて.
能く 是の 法を 聴く者は 斯の人 亦復 難しとて.

このきょうは まさしき ほとけの おんつかい よに いでずんば ほとけの ごほんいの ごとく とく こと かたき うえ.
此経は 正き 仏の 御使世に 出でずんば 仏の 御本意の 如く 説く 事 難き 上、.

この きょうの いわれを とい たずねて ふしんを あきらめ.
此の 経の いはれを 問い 尋ねて 不審を 明らめ.

よく しんずる もの かたかるべしと みえて そうろう.
能く 信ずる 者 難かるべしと 見えて 候、.

いかに いやしきもの なりとも すこし われ より すぐれて ちえ ある ひとには.
何に 賤者 なりとも 少し 我れ より 勝れて 智慧 ある 人には.

この きょうの いわれを とい たずね たまうべし.
此の 経の いはれを 問い 尋ね 給うべし、.

しかるに あくせの しゅじょうは がまん へんしゅう みょうもん みょうりに じゃくして.
然るに 悪世の 衆生は 我慢・ 偏執・ 名聞・ 名利に 著して.

かれが でしと なるべきか.
彼れが 弟子と 成るべきか.

かれに ものを ならわば ひとにや いやしく おもわれん ずらんと.
彼れに 物を 習はば 人にや 賤く 思はれん ずらんと、.

ふだん あくねんに じゅうして あくどうに だすべしと みえて そうろう.
不断 悪念に 住して 悪道に 堕すべしと 見えて 候、.

→a1382

b1383

ほっしほんには
法師品には

「ひと ありて 80おくこうの あいだ むりょうの たからを つくして ほとけを くようし たてまつらん くどく よりも.
「人 有りて 八十億劫の 間・ 無量の 宝を 尽して 仏を 供養し 奉らん 功徳 よりも.

ほけきょうを とかん そうを くようして のちに しゅゆの あいだも この きょうの ほうもんを ちょうもんする こと あらば.
法華経を 説かん 僧を 供養して 後に 須臾の 間も 此の 経の 法門を 聴聞する 事 あらば・.

われ おおいなる りやく くどくを うべしと よろこぶべし」と みえたり.
我れ 大なる 利益 功徳を 得べしと 悦ぶべし」と 見えたり、.

むちの ものは この きょうを とくものに つかわれて くどくを うべし .
無智の 者は 此の 経を 説く 者に 使れて 功徳を うべし、.

いかなる きちく なりとも ほけきょうの いちげ いっくをも とかん ものをば.
何なる 鬼畜 なりとも 法華経の 一偈 一句をも 説かん 者をば.

「まさに たちて とおく むかえて まさに ほとけを うやまうが ごとく すべし」の どうり なれば.
「当に 起ちて 遠く 迎えて 当に 仏を 敬うが 如く すべし」の 道理 なれば.

ほとけの ごとく たがいに うやまうべし.
仏の 如く 互に 敬うべし、.

れいせば ほうとうほんの ときの しゃか たほうの ごとく なるべし.
例せば 宝塔品の 時の 釈迦 多宝の 如く なるべし。.

この 3みぼうは げれつの もの なれども.
此の 三位房は 下劣の 者 なれども.

しょうぶんも ほけきょうの ほうもんを もうす もの なれば.
少分も 法華経の 法門を 申す 者 なれば.

ほとけの ごとく うやまいて ほうもんを おんたずね あるべし.
仏の 如く 敬いて 法門を 御尋ね あるべし、.

えほう ふえにん これを おもうべし.
依法 不依人 此れを 思ふべし、.

されば むかし ひとりの ひと ありて せっせんと もうす やまに すみ たまいき.
されば 昔 独りの 人 有りて 雪山と 申す 山に 住み 給き.

そのなを せっせんどうじと いう.
其の 名を 雪山童子と 云う、.

わらびを おり このみを ひろいて いのちを つぎ.
蕨を おり 菓を 拾いて 命を つぎ.

しかの かわを きものと こしらえ はだを かくし しずかに みちを ぎょうじ たまいき.
鹿の 皮を 著物と こしらへ 肌を かくし 閑に 道を 行じ 給いき、.

この せっせんどうじ おもわれけるは つらつら せけんを かんずるに.
此の 雪山童子 おもはれけるは 倩 世間を 観ずるに.

しょうじ むじょうの ことわり なれば しょうずる ものは かならず しす.
生死 無常の 理 なれば 生ずる 者は 必ず 死す、.

されば うきよの なかの あだ はかなき こと.
されば 憂世の 中の あだ はかなき 事.

たとえば でんこうの ごとく あさつゆの ひに むかいて きえるに にたり.
譬ば 電光の 如く 朝露の 日に 向ひて 消るに 似たり、.

かぜの まえの ともしびの きえやすく ばしょうの はの やぶれやすきに ことならず.
風の 前の 灯の 消へやすく・ 芭蕉の 葉の 破やすきに 異ならず、.

ひと みな この むじょうを のがれず ついに 1どは よみじの たびに おもむくべし.
人 皆 此の 無常を 遁れず 終に 一度は 黄泉の 旅に 趣くべし、.

しかれば めいどの たびを おもうに.
然れば 冥途の 旅を 思うに.

あんあんとして くらければ にちがつ せいしゅくの ひかりも なく.
闇闇として・ くらければ 日月 星宿の 光も なく、.

せめて ともしびとて ともす ひだにも なし.
せめて 灯燭とて・ ともす 火だにも なし、.

かかる くらき みちに また ともなう ひとも なし.
かかる 闇き 道に 又 ともなふ 人も なし、.

しゃばに あるときは しんるい きょうだい さいし けんぞく あつまりて.
娑婆に ある時は 親類・ 兄弟・ 妻子・ 眷属 集りて.

ちちは いつくしみの こころざし たかく ははは かなしみの なさけ ふかく.
父は 慈みの 志 高く 母は 悲しみの 情 深く、.

ふさいは かいろうどうけつの ちぎり とて.
夫妻は 海老同穴の 契り とて.

だいかいに ある えびは おなじ ちくしょう ながら ふうふ ちぎり こまかに.
大海に ある えびは 同じ 畜生 ながら 夫婦 ちぎり 細かに、.

いっしょう いっしょに ともないて はなれ さること なきが ごとく.
一生 一処に ともなひて 離れ 去る事 なきが 如く・.

えんおうの ふすまの したに まくらを ならべて あそび たわむる なか なれども.
鴛鴦の 衾の 下に 枕を 並べて 遊び 戯る 中 なれども・.

かの めいどの たびには ともなう こと なし.
彼の 冥途の 旅には 伴なふ 事 なし、.

めいめいとして ひとり ゆく.
冥冥として 独り 行く.

たれか きたりて ぜひを とぶらわんや.
誰か 来りて 是非を 訪はんや、.

あるいは ろうしょう ふじょうの さかいなれば おいたるは さきだち.
或は 老少 不定の 境なれば 老いたるは 先立・.

わかきは とどまる これは じゅんじの どうり なり.
若きは 留まる 是れは 順次の 道理 なり.

なげきの なかにも せめて おもい なぐさむ かたも ありぬべし.
歎きの 中にも・ せめて 思い なぐさむ 方も 有りぬべし、.

おいたるは とどまり わかきは さきだつ されば.
老いたるは 留まり 若きは 先立つ されば.

うらみの いたって うらめしきは おさなくして おやに さきだつ こ.
恨の 至つて 恨めしきは 幼くして 親に 先立つ 子、.

なげきの いたって なげかしきは おいて こを さきだつる おや なり.
嘆きの 至つて 歎かしきは 老いて 子を 先立つる 親 なり、.

かくの ごとく しょうじ むじょう ろうしょう ふじょうの さかい あだに.
是くの 如く 生死・ 無常・ 老少 不定の境 あだに・.

はかなき よの なかに ただ ちゅうやに こんじょうの たくわえを のみ おもい.
はかなき 世の 中に・ 但 昼夜に 今生の 貯を のみ 思ひ.

ちょうせきに げんせの わざを のみなして.
朝夕に 現世の 業を のみなして、.

ほとけも うやまわず ほうをも しんぜず.
仏をも 敬はず 法をも 信ぜず.

むぎょう むちにして いたずらに あかし くらして.
無行 無智にして 徒らに 明し 暮して、.

えんまの ちょうていに ひき むかえられん ときは.
閻魔の 庁庭に 引き 迎へられん 時は.

→a1383

b1384

なにを もってか しりょうとして 3がいの ちょうとを ゆき.
何を 以つてか 資糧として 三界の 長途を 行き、.

なにを もって ふねいかだとして しょうじの こうかいを わたりて じっぽう じゃっこうの ぶつどに いたらんやと おもい.
何を 以て 船筏として 生死の 曠海を 渡りて 実報 寂光の 仏土に 至らんやと 思ひ、.

まよえば ゆめ さとれば うつつ しかじ.
迷へば 夢 覚れば 寤 しかじ.

ゆめの うきよを すてて うつつの さとりを もとめんにはと しゆいし.
夢の 憂世を 捨てて 寤の 覚りを 求めんにはと 思惟し、.

かの やまに こもりて かんねんの ゆかの うえに もうそう てんどうの ちりを はらい.
彼の 山に 篭りて 観念の 牀の 上に 妄想 顛倒の 塵を 払ひ.

ひとえに ぶっぽうを もとめ たまう ところに.
偏に 仏法を 求め 給う 所に。.

たいしゃく はるかに てんより みおろし たまいて おぼし めさるる ようは.
帝釈 遥に 天より 見下し 給いて 思し 食さるる 様は、.

うおの こは おおけれども うおと なるは すくなく.
魚の 子は 多けれども 魚と なるは 少なく・.

あんらじゅの はなは おおく さけども このみに なるは すくなし.
菴羅樹の 花は 多く さけども 菓に なるは 少なし、.

ひとも また かくの ごとし.
人も 又 此くの 如し.

ぼだんしんを おこす ひとは おおけれども たいせずして じつの みちに いる ものは すくなし.
菩提心を 発す 人は 多けれども 退せずして 実の 道に 入る 者は 少し、.

すべて ぼんぷの ぼだいしんは おおく.
都て 凡夫の 菩提心は 多く.

あくえんに たぼらかされ ことに ふれて うつり やすき もの なり.
悪縁に たぼらかされ 事に ふれて 移り やすき 物 なり、.

よろいを きたる つわものは おおけれども いくさに おそれを なさざるは すくなきが ごとし.
鎧を 著たる 兵者は 多けれども 戦に 恐れを なさざるは 少なきが 如し、
.
この ひとの こころを ゆきて こころみばやと おもいて.
此の 人の 意を 行て 試みばやと 思いて.

たいしゃく きじんの かたちを げんじ どうじの かたわらに たち たまう.
帝釈・ 鬼神の 形を 現じ 童子の 側に 立ち 給う、.

その とき ほとけ よに ましまさざれば.
其の 時 仏 世に ましまさざれば.

せっせんどうじ あまねく だいじょうきょうを もとむるに きくこと あたわず.
雪山童子 普く 大乗経を 求むるに 聞くこと あたはず、.

ときに しょぎょうむじょう ぜしょうめっぽうと いう おと ほのかに きこゆ.
時に 諸行無常・ 是生滅法と 云う 音 ほのかに 聞ゆ、.

どうじ おどろき しほうを みたまうに ひとも なし.
童子 驚き 四方を 見給うに 人も なし.

ただ きじん ちかづきて たちたり.
但 鬼神 近付て 立ちたり、.

その かたち けわしく おそろしくて こうべの かみは ほのおの ごとく.
其の 形 けはしく・ をそろしくて 頭の かみは 炎の 如く.

くにの はは つるぎの ごとく めを いからして せっせんどうじを まもり たてまつる.
口の 歯は 剣の 如く 目を 瞋らして 雪山童子を まほり 奉る、.

これを みるにも おそれず.
此れを 見るにも 恐れず.

ひとえに ぶっぽうを きかん ことを よろこび あやしむ こと なし.
偏に 仏法を 聞かん 事を 喜び 怪しむ 事 なし、.

たとえば ははを はなれたる こうし ほのかに ははの こえを ききつるが ごとし.
譬えば 母を 離れたる こうし ほのかに 母の 音を 聞きつるが 如し、.

このこと たれか じゅしつるぞ.
此事 誰か 誦しつるぞ・.

いまだ のこりの ことば あらんとて あまねく たずね もとむるに.
いまだ 残の 語 あらんとて 普ねく 尋ね 求るに.

さらに ひとも なければ もしも この ことばは きじんの ときつるかと うたがえども よも.
更に 人も なければ、 若しも 此の 語は 鬼神の 説きつるかと 疑へども よも・.

さも あらじと おもい かの みは ざいほうの きじんの かたち なり.
さも あらじと 思ひ 彼の 身は 罪報の 鬼神の 形 なり.

この げは ほとけの とき たまえる ことば なり.
此の 偈は 仏の 説き 給へる 語 なり、.

かかる いやしき きじんの くちより いづ べからずとは おもえども.
かかる 賤き 鬼神の 口より 出づ べからずとは 思へども、.

また ことに ひとも なければ もし この ことば なんじが ときつるかと とえば.
亦 殊に 人も なければ 若し 此の 語 汝が 説きつるかと 問へば、.

きじん こたえて いう.
鬼神 答て 云う.

われに ものな いいそ しょくせずして ひかずを へぬれば うえつかれて しょうねんを おぼえず.
我れに 物な 云いそ 食せずして 日数を 経ぬれば 飢え 疲れて 正念を 覚えず、.

すでに あだごと いいつる ならん.
既に あだごと 云いつる ならん.

われ うつける こころにて いえば しる ことも あらじと こたう.
我 うつける 意にて 云へば 知る 事も あらじと 答ふ、.

どうじの いわく.
童子の 云く.

われは この はんげを ききつる こと なかばなる つきを みるが ごとく.
我れは 此の 半偈を 聞きつる 事 半なる 月を 見るが 如く.

なかばなる たまを うるに にたり.
半なる 玉を 得るに 似たり、.

たしかに なんじが ことば なり.
慥に 汝が 語 なり.

ねがわくは のこれる げを とき たまえと のたまう.
願くは 残れる 偈を 説き 給へと のたまふ、.

きじんの いわく.
鬼神の 云く.

なんじは もとより さとりあれば きかずとも うらみは ある べからず.
汝は 本より 悟あれば 聞かずとも 恨は 有る べからず.

われは いま うえに せめられたれば ものを いうべき ちから なし.
吾は 今 飢に 責められたれば 物を 云うべき 力 なし.

すべて われに むかいて ものな いいそと いう.
都て 我に 向いて 物な 云いそと 云う、.

どうじ なお ものを くいては とかんやと とう.
童子 猶 物を 食ては 説かんやと 問う、.

→a1384

b1385

きじん こたえて くいては ときてんと いう.
鬼神 答て 食ては 説きてんと 云う、.

どうじ よろこびて さて なにものか じきと するぞと とえば.
童子 悦びて さて 何物をか 食と するぞと 問へば、.

きじんの いわく.
鬼神の 云く.

なんじ さらに とう べからず これを ききては かならず おそれを なさん.
汝 更に 問う べからず 此れを 聞きては 必ず 恐を 成さん、.

また なんじが もとむべき ものにも あらずと いえば どうじ なお せめて とい たまわく.
亦 汝が 求むべき 物にも あらずと 云へば 童子 猶 責めて 問い 給はく.

その ものをと だにも いわば こころみにも もとめんと のたまえば.
其の 物をと だにも 云はば 心みにも 求めんと の給えば.

きじんの いわく.
鬼神の 云く.

われ ただ ひとの やわらかなる にくを しょくし ひとの あたたかなる ちを のむ.
我れ 但 人の 和らかなる 肉を 食し 人の あたたかなる 血を 飲む、.

そらを とび あまねく.
空を 飛び 普ねく.

もとむれども ひとをば おのおの まもり たまう ぶっしん ましませば こころに まかせて ころし がたし.
求れども 人をば 各 守り 給う 仏神 ましませば 心に 任せて 殺し がたし、.

ぶっしんの すてたまう しゅじょうを ころして しょくする なりと いう.
仏神の 捨て 給う 衆生を 殺して 食する なりと 云う、.

そのとき せっせんどうじの おもい たまわく.
其時 雪山童子の 思い 給はく.

われ ほうの ために みを すて このげを きき おわらんと おもいて.
我れ 法の 為に 身を 捨て 此の 偈を 聞き 畢らんと 思いて、.

なんじが しょくもつ ここに あり ほかに もとむべきに あらず.
汝が 食物 ここに 有り 外に 求むべきに あらず、.

わが み いまだ しせず その にく あたたか なり.
我が 身 いまだ 死せず 其の 肉 あたたか なり.

わが み いまだ ひえず その ち あたたか ならん.
我が 身 いまだ 寒ず 其の 血 あたたか ならん、.

ねがわくは のこりの げを とき たまえ.
願くは 残の 偈を 説き 給へ.

この みを なんじに あたえんと いう.
此の 身を 汝に 与えんと 云う、.

ときに きじん おおいに いかりて いわく.
時に 鬼神 大に 瞋て 云く.

たれか なんじが ことばを まこととは たのむべき.
誰か 汝が 語を 実とは 憑むべき、.

きいて のちには たれをか しょうにんとして たださんと いう.
聞いて 後には 誰をか 証人として 糾さんと 云う、.

せっせんどうじの いわく この みは ついに しすべし いたずらに しせん.
雪山童子の 云く 此の 身は 終に 死すべし 徒に 死せん.

いのちを ほうの ために なげば きたなく けがらわしき みを すてて.
命を 法の 為に 投げば きたなく・ けがらはしき 身を 捨てて.

ごしょうは かならず さとりを ひらき ほとけと なり しょうみょうなる みを うくべし.
後生は 必ず 覚りを 開き 仏と なり 清妙なる 身を 受くべし、.

どきを すてて ほうきに かゆるが ごとく なるべし.
土器を 捨てて 宝器に 替るが 如く なるべし、.

ぼんてん たいしゃく 4だいてんのう じっぽうの しょぶつ.
梵天・ 帝釈・ 四大天王・ 十方の 諸仏・.

ぼさつを みな しょうにんと せん われ さらに いつわる べからずと のたまえり.
菩薩を 皆 証人と せん 我れ 更に 偽る べからずと の給えり、.

その とき きじん すこし やわらいで もし なんじが いう ところ まことならば げを とかんと いう.
其の 時 鬼神 少し 和で 若し 汝が 云う 処 実ならば 偈を 説かんと 云う.

そのとき せっせんどうじ おおいに よろこんで.
其の時 雪山童子 大に 悦んで.

みに きたる しかの かわを ぬいで ほうざに しき こうべを ちに つけ たなごころを あわせ ひざまづき.
身に 著たる 鹿の 皮を 脱いで 法座に 敷 頭を 地に 付け 掌を 合せ 跪き、.

ただ ねがわくは わが ために のこりの げを とき たまえと いうて ししんに ふかく うやまい たまう.
但 願くは 我が 為に 残の 偈を 説き 給へと 云うて 至心に 深く 敬い 給ふ、.

さて ほうざに のぼり きじん げを といて いわく.
さて 法座に 登り 鬼神 偈を 説いて 云く.

しょうめつめっち じゃくめついらくと.
生滅滅已・ 寂滅為楽と.

この とき せっせんどうじ これを きき よろこび とうとみ たまう こと かぎりなく.
此の 時 雪山童子 是れを 聞き 悦び 貴み 給う 事 限なく.

ごせ までも わすれじと たびたび じゅして ふかく その こころに そめ.
後世 までも 忘れじと 度度 誦して 深く 其の 心に そめ、.

よろこばしき ところは これ ほとけの とき たまえるにも ことならず.
悦ばしき 処は これ 仏の 説き 給へるにも 異ならず.

なげかわしき ところは われ 1にんのみ ききて ひとの ために つたえざらん ことをと ふかく おもいて.
歎かわ敷き 処は 我れ 一人のみ 聞きて 人の 為に 伝へざらん 事をと 深く 思いて.

いしのうえ かべの おもて みちの ほとりの しょぼく ごとに この げを かきつけ.
石の 上・ 壁の 面・ 路の 辺の 諸木 ごとに 此の 偈を 書き付け.

ねがわくは のちに きたらん ひと かならず この もんを み.
願くは 後に 来らん 人 必ず 此の 文を 見.

そのぎりを さとり まことの みちに いれと いいおわって.
其の 義理を さとり 実の 道に 入れと 云い畢つて、.

すなわち たかき きに のぼりて きじんの まえに おち たまえり.
即 高き 木に 登りて 鬼神の 前に 落ち 給へり、.

いまだ ちに いたらざるに.
いまだ 地に 至らざるに.

きじん にわかに たいしゃくの かたちと なりて せっせんどうじの その みを うけとりて.
鬼神 俄に 帝釈の 形と 成りて 雪山童子の 其 身を 受取りて.

たいらかなる ところに すえ たてまつりて くぎょう らいはいして いわく.
平かなる 所に すえ 奉りて 恭敬 礼拝して 云く.

われ しばらく にょらいの しょうぎょうを おしみて ためしに ぼさつの こころを なやまし たてまつるなり.
我れ 暫く 如来の 聖教を 惜みて 試に 菩薩の 心を 悩し 奉るなり、.

ねがわくは この つみを ゆるして ごせには かならず すくい たまえと いう.
願くは 此の 罪を 許して 後世には 必ず 救ひ 給へと 云ふ、.

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いっさいの てんにん また きたりて.
一切の 天人 又 来りて.

よきかな よきかな まことに これ ぼさつ なりと ほめ たまう.
善哉善哉 実に 是れ 菩薩 なりと 讃め 給ふ、.

はんげの ために みを なげて 12こう しょうじの つみを めっし たまえり.
半偈の 為めに 身を 投げて 十二劫 生死の 罪を 滅し 給へり.

このこと ねはんぎょうに みえたり.
此の事 涅槃経に 見えたり、.

しかれば せっんどうじの いにしえを おもえば はんげの ために なお いのちを すて たまう.
然れば 雪山童子の 古を 思へば 半偈の 為に 猶 命を 捨て 給ふ、.

いかに いわんや この きょうの 1ほん 1かんを ちょうもん せん おんとくをや.
何に 況や 此の 経の 一品 一巻を 聴聞 せん 恩徳をや.

なにを もってか これを ほうぜん.
何を 以てか 此れを 報ぜん、.

もっとも ごせを ねがわんには かの せっせんどうじの ごとくこそ あらまほしくは そうらえ.
尤も 後世を 願はんには 彼の 雪山童子の 如くこそ・ あらまほしくは 候へ、.

まことに わが み ひんにして ふせすべき たから なくば わが しんみょうを すて.
誠に 我が 身 貧にして 布施すべき 宝 なくば 我が 身命を 捨て.

ぶっぽうを うべき たより あらば しんみょうを すてて ぶっぽうを がくす べし.
仏法を 得べき 便あらば 身命を 捨てて 仏法を 学す べし。.

とても この みは いたずらに さんやの つちに なるべし.
とても 此の 身は 徒に 山野の 土と 成るべし・.

おしみても なにかせん おしむとも おしみ とぐ べからず.
惜みても 何かせん 惜むとも 惜み とぐ べからず・.

ひと ひさしと いえども 100ねんには すぎず.
人 久しと いえども 百年には 過ず・.

その あいだの ことは ただ いっすいの ゆめ ぞかし.
其の 間の 事は 但 一睡の 夢 ぞかし、.

うけがたき じんしんを えて たまたま しゅっけせる ものも.
受けがたき 人身を 得て 適ま 出家せる 者も・.

ぶっぽうを がくし ほうぼうの ものを せめずして いたずらに.
仏法を 学し 謗法の 者を 責めずして 徒らに.

ゆげぞうだんのみ して あかし くらさん ものは ほっしの かわを きたる ちくしょう なり.
遊戯雑談のみ して 明し 暮さん 者は 法師の 皮を 著たる 畜生 なり、.

ほっしの なを かりて よを わたり.
法師の 名を 借りて 世を 渡り.

みを やしなうと いえども ほっしと なる ぎは ひとつも なし.
身を 養うと いへども 法師と なる 義は 一も なし・.

ほっしと いう みょうじを ぬすめる ぬすびと なり.
法師と 云う 名字を ぬすめる 盗人 なり、.

はずべし おそるべし.
恥づべし 恐るべし、.

しゃくもんには「われ しんみょうを あいせず ただ むじょうどうを おしむ」と とき.
迹門には「我 身命を 愛せず 但だ 無上道を 惜しむ」と とき・.

ほんもんには「みずから しんみょうを おしまず」と とき.
本門には「自ら 身命を 惜まず」と とき・.

ねはんぎょうには「みは かるく ほうは おもし みを しして ほうを ひろむ」と みえたり.
涅槃経には「身は 軽く 法は 重し 身を 死して 法を 弘む」と 見えたり、.

ほんじゃく りょうもん ねはんぎょう ともに しんみょうを すてて ほうを ひろむべしと みえたり.
本迹 両門・ 涅槃経 共に 身命を 捨てて 法を 弘むべしと 見えたり、.

これらの いましめを そむく じゅうざいは めには みえざれども つもりて じごくに おつる こと.
此等の 禁を 背く 重罪は 目には 見えざれども 積りて 地獄に 堕つる 事・.

たとえば かんねつの すがた かたちも なく まなこには みえざれども.
譬ば 寒熱の 姿 形もなく 眼には 見えざれども、.

ふゆは かん きたりて そうもく じんちくを せめ.
冬は 寒 来りて 草木・ 人畜を せめ.

なつは ねつ きたりて じんちくを ねつのう せしむるが ごとく なるべし.
夏は 熱 来りて 人畜を 熱悩 せしむるが 如く なるべし。.

しかるに ざいけの おんみは ただ よねん なく.
然るに 在家の 御身は 但 余念 なく.

なんみょうほうれんげきょうと おんとなえ ありて そうをも くようし たまうが かんじんにて そうろうなり.
南無妙法蓮華経と 御唱え ありて 僧をも 供養し 給うが 肝心にて 候なり、.

それも きょうもんの ごとくならば ずいりき えんぜつも あるべきか.
それも 経文の 如くならば 随力 演説も 有るべきか、.

よのなか ものうからん ときも こんじょうの くさえ かなしし.
世の中 ものうからん 時も 今生の 苦さへ かなしし、.

いわんや らいせの くをやと おぼしめしても なんみょうほうれんげきょうと となえ.
況や 来世の 苦をやと 思し食しても 南無妙法蓮華経と 唱へ、.

よろこばしからん ときも こんじょうの よろこびは ゆめの なかの ゆめ.
悦ばしからん 時も 今生の 悦びは 夢の 中の 夢・.

りょうぜんじょうどの よろこびこそ まことの よろこびなれと おぼしめし あわせて.
霊山浄土の 悦びこそ 実の 悦びなれと 思し食し 合せて.

また なんみょうほうれんげきょうと となえ.
又 南無妙法蓮華経と 唱へ、.

たいてんなく しゅぎょうして さいご りんじゅうの ときを まって ごらんぜよ.
退転なく 修行して 最後 臨終の 時を 待つて 御覧ぜよ、.

みょうかくの やまに はしり のぼって しほうを きっと みる ならば.
妙覚の 山に 走り 登つて 四方を きつと 見る ならば・.

あら おもしろや ほうかい じゃっこうどにして るりを もって ちとし.
あら 面白や 法界 寂光土にして 瑠璃を 以つて 地とし・.

こがねの なわを もって 8の みちを さかえり.
金の 繩を 以つて 八の 道を 界へり、.

てんより 4しゅの はな ふり こくうに おんがく きこえて.
天より 四種の 花ふり 虚空に音楽 聞えて、.

しょぶつ ぼさつは じょうらくがじょうの かぜに そよめき ごらくけらくし たまうぞや.
諸仏 菩薩は 常楽我浄の 風に そよめき 娯楽 快楽し 給うぞや、.

われらも その かずに つらなりて ゆうげし たのしむべき こと はや ちかずけり.
我れ等も 其の 数に 列なりて 遊戯し 楽むべき 事 はや 近づけり、.

しんじん よわくしては かかる めでたき ところに ゆく べからず ゆく べからず.
信心 弱くしては かかる 目出たき 所に 行く べからず 行く べからず、.

ふしんの ことをば なお なお うけたまわるべく そうろう.
不審の 事をば 尚 尚 承はるべく 候、.

あなかしこ あなかしこ.
穴賢 穴賢。.

けんじ 2ねん ひのえね 12がつ ここのか.
建治 二年 丙子 十二月 九日.

にちれん かおう.
日蓮 花押.

まつのどの ごへんじ.
松野殿御返事.

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